ある科学者チームが25年分のデータを調査した結果、驚くべき結論を出した。なんと北米のオオカバマダラ(Danaus plexippus)が増えているというのだ。6月10日付けで学術誌「Global Change Biology」に論文が発表された。
オオカバマダラというチョウは、北米では最長4800キロにも及ぶ長い渡りをし、「皇帝(monarch)」の二つ名をもつ有名な昆虫だ。だが、過去数十年にわたって激減し、存続が危ぶまれていた。もし今回の発見が真実ならば、そうした認識が覆される可能性がある。
誤解のないように言っておくと、オオカバマダラは北アフリカや東南アジアなどにも生息しており、種全体としてはまだ健在だ。しかし、北米のオオカバマダラは異なる。
近年、北米の群れは激減していると言われ続けてきた。北米東部の群れは、過去40年間で約80%減ったという報告もある。また、北米西部の群れは、同じ期間に99%減ったと言われている。オオカバマダラが激減したのは、夏を過ごすカナダと米国の生息地全域で農薬が使用されたり、幼虫が餌とするトウワタという植物が広範囲にわたって失われたりしたことが原因である可能性が高い。(参考記事:「「旅する蝶」が激減、入り組んだ人為的影響」)
こうしたデータに基づき、米魚類野生生物局(FWS)は2020年12月、オオカバマダラの北米亜種(Danaus plexippus plexippus)が米国の絶滅危惧種保護法(ESA)の保護要件を満たしたと発表した。しかし、より状況が切迫した他種の保護を優先する必要があるとして、FWSは絶滅危惧種リストへの登録を断念し、2024年に再評価を行うこととした。
だが、もはやその必要はないのかもしれない。
論文の最終著者である米ジョージア大学の動物生態学者アンドリュー・デイビス氏らは、北米チョウ協会(NABA)が毎年行っているチョウの個体数調査で1993〜2018年に集められたデータを調べた。その結果、ある場所ではオオカバマダラが減っている一方、別の場所では増えていた。そして、全体的にはわずかに増加傾向にあると推定された。
NABAのデータに基づいて同様の結論を出したのはデイビス氏らが初めてではないが、これまでで最も広範囲にわたる分析だとデイビス氏は自負する。
また、オオカバマダラのライフサイクルは複雑なため、観察が特に困難だと氏は付け加える。
オオカバマダラは毎年、5世代かけて北米を移動する。そのため、科学者はメキシコの越冬コロニー(集団)に注目してきた。メキシコは、オオカバマダラが一堂に会する唯一の場所であり、調査がしやすいからだ。
しかし、オオカバマダラのライフサイクルの一部だけに注目すると、全体像を見逃してしまう恐れがある。そこでデイビス氏らは、市民ボランティアが集めたデータに注目した。オオカバマダラの個体数について信頼できる推定値が得られるからだという。
「北米でも特に数の多いチョウを絶滅危惧種リストに載せようだなんて、どうかしています」とデイビス氏は言う。「(チョウが減っているという)認識に基づいた議論であり、実際のデータに基づいたものではありません」