プエンテヒルズは、ロサンゼルスの超高層ビル群から遠くの太平洋まで見渡すことができる米国カリフォルニア州の保護区。その丘陵地帯に、黄色い花があちこちに固まって咲いている。同州で「侵略的外来種」として脅威を及ぼしつつある植物クロガラシだ。
クロガラシはユーラシア原産のアブラナ科の植物。成長が非常に早いうえ、他の植物の発芽を阻害する化学物質を作り出して、在来植物を駆逐してしまう。厄介なのはそれだけではない。春になると盛んに成長して2.5メートルもの高さになるが、初夏には燃えやすく危険な枯れ草となる。
カリフォルニア州では気候変動の影響もあり、森林火災が大きな問題になっている。2021年には80万ヘクタール以上の原野が森林火災で焼失した。昨冬も雨が少なく、深刻な干ばつが続いているため、2022年は破壊的な火災シーズンとなる恐れがあると気象学者らは警告する。(参考記事:「一面がオレンジ色、カリフォルニアで相次ぐ森林火災」)
これまで土地管理者たちは、火災シーズンに先立って除草剤を散布したり、人力で草や低木を伐採したりして、火災で燃えやすい植物の量を減らしてきた。しかし、南カリフォルニアの山地はアクセスが難しい。また、こうした従来の方法では、種子が残って翌年に発芽することがある。
そのためカリフォルニア州では、ヤギを利用する人が増えている。ヤギは昔から雑草の除去に利用されてきたが、森林火災が世界各地で深刻になるにつれ、ギリシャやオーストラリア、さらに米国ではアリゾナ州やコロラド州などでも、森林火災防止策としてヤギを導入する試みが広がっている。
そんな顧客のために、カリフォルニア州で6年前からヤギの群れを貸し出しているのが、天然資源を重視した環境計画を専門とするセージ・エンバイロンメンタル・グループ。「最初は、生息環境を回復させるために始めたのです。あちこちに大量の除草剤を散布するのは、もううんざりでしたから」と、同社のオーナーであるアリッサ・コープ氏は語る。「ヤギに食べられて消化管を通過した種子は成長できなくなります。排せつされた種子が発芽しないのは驚きです」
ある春の晴れた朝、プエンテヒルズ保護区では、色も大きさもさまざまな100頭のヤギが大きな囲いの中で動き回っていた。同保護区はトランスバース山脈の低地に広がる1500ヘクタールの土地だ。
囲いのゲートが開くと、ヤギたちはいそいそと走り出て、周囲の雑草やクロガラシを熱心に食べ始める。クロガラシは、18世紀にスペインからフランシスコ会の宣教師が持ち込んだのではないかと考えられている。
プエンテヒルズ保護区は最近、ヤギを利用して燃えやすい植物や侵入植物を削減するプログラムに対して、カリフォルニア州森林保護防火局(カルファイア)から助成金を支給された。この実験プログラムの目的は、ヤギを使って保護区の森林火災のリスクを軽減できるかどうかを調査することだ。
防火対策専門家のトレバー・ムーア氏は、このプログラムが今後の対策の成功モデルとなることを期待している。氏はロサンゼルス郡でカルファイア助成金の準備と調整を支援している。
「小さな環境負荷で可燃性の植物量を削減できるプログラムが成功するよう願っています。そうすれば、他の地域にも良い手本となるでしょう」とムーア氏。「私たちの生活、財産、環境を守る上で、大きな助けとなるかもしれません」