モロッコでは何年も前から、一部の農民が「木登りヤギ」を観光客向けの見世物にしている。(PHOTOGRAPH BY ALFREDO CALIZ, PANOS PICTURES)
モロッコでは何年も前から、一部の農民が「木登りヤギ」を観光客向けの見世物にしている。(PHOTOGRAPH BY ALFREDO CALIZ, PANOS PICTURES)

 10年ほど前から、ニュースで大きく取り上げられるようになった「モロッコの木登りヤギ」。1本の木の上に何匹ものヤギが立っている様子は、まるで「ヤギのなる木」だ。

 ヤギたちのこの行動は、モロッコ特有の自然現象とされ、ある意味では本能的なものと考えられている。ヤギはアルガンの木(アルガンノキ)になる実が好物で、その果肉を求め、身軽さを生かして木を登る。

 ところが今ではその光景が、観光客相手の見世物になっている。街道沿いで一部の人たちが、観光客からのチップを目当てに家畜のヤギを木に登らせているのだ。(参考記事:「【動画】ヤギがブランコで「気絶」、原因は遺伝」

木登りの訓練

 2022年のある金曜の朝、ジャウアド・ベナッディ氏は、自分が飼っているヤギを木に登らせるという難題に取り組んでいた。しかし、トゲだらけで曲がりくねったアルガンノキの枝の上に立たせようとしても、12頭のヤギたちには協力する様子がまるで見られない。

 そこで父親を助けようと、13歳の息子のカリードくんが、穀物が入った袋を手に自ら木の上に登った。1匹のヤギがメーと鳴き、その後に続く。カリードくんは、さらに上の枝へ移動し、ここまでおいでとヤギを誘う。じっと待っていると、ヤギが追いついてきて穀物に口をつけた。しかし、カリードくんがヤギを引き寄せようとすると、ヤギは抵抗して木から飛び降りてしまった。(参考記事:「【動画】電線ぶらり、ドア破壊、ヤギの奇妙な行動」

家族で飼っているヤギをアルガンノキに登らせるために、穀物を使っておびき寄せるカリード・ベナッディくん(13歳)。(PHOTOGRAPH BY ERIKA HOBART)
家族で飼っているヤギをアルガンノキに登らせるために、穀物を使っておびき寄せるカリード・ベナッディくん(13歳)。(PHOTOGRAPH BY ERIKA HOBART)

 少年とヤギはこのプロセスを3度繰り返し、やがてカリードくんがヤギを木の枝を組んで作った小さな台座の上まで誘導すると、ヤギは脚を置く位置を調整してから動きを止める。残りのヤギたちにも言うことを聞かせるには、辛抱強く相手をする必要がある。最終的には、12匹のヤギが枝の上に立ったまま、ピクリとも身動きをしなくなる。その様子はまるで、アルガンノキの枝にあしらわれた生きた飾りもののようだ。

 このように、観光客目当てにヤギを木に登らせる人が現れ始めたのは2000年代初頭のこと。2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生すると、この商売は徐々に下火になっていった。しかし2022年のはじめ、モロッコ政府がロックダウンを解除したことで、ヤギを見世物にしたビジネスが復活し、それと同時に動物保護活動家からの批判も強まっている。

 英国に拠点を置く国際的な動物保護団体「ワールド・アニマル・プロテクション」のリズ・カブレラ・ホルツ氏は言う。「木に登るヤギは操られ、搾取されているのです。彼らは自由に動くことができず、食べ物も水も、日陰さえも手に入れられない状態にあります。木の上に何時間もいることを強いられるのは、正常な行動ではないのです」

ギャラリー:見世物になった「モロッコの木登りヤギ」 写真7点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:見世物になった「モロッコの木登りヤギ」 写真7点(写真クリックでギャラリーページへ)
ヤギは、皮が厚く、果肉が甘い香りを放つアルガンノキの実を好んで食べる。(PHOTOGRAPH BY ERIKA HOBART)

街道沿いに9つの「木登りヤギ」ポイント

 モロッコの樹上にいるヤギは「見世物としてそうするよう訓練されている」のだと、マラケシュのツアーガイド、モハメド・エラームラニ氏は言う。「ヤギは木にも、山にも登ることができますし、それが得意なのです」

 歴史ある都市マラケシュと、大西洋岸にある人気の街エッサウィラとを結ぶ約180キロの道路沿いでは、ベナッディ氏のものも含め、9つのヤギの群れが木に登っている様子が見られる。ヤギが木の上にいる時間は通常、交通量が最も多くなる午前中の遅い時間から午後の中頃にかけてだ。木登りヤギはまた、さらに南のアガディール近郊でも見ることができる。

「まるでキノコのように、わさわさといますよ」とエラームラニ氏は言う。

次ページ:木登りヤギの売上は

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