巨大波を数学で予測できるか? 神出鬼没、高さ25mの波も

津波とは別、穏やかな海でも突然発生、予測技術の開発進む

2022.06.06
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葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」に描かれた大きな波は、津波と解釈されることがあるが、沖合に発生する「巨大波」である可能性が高い。(KATSUSHIKA HOKUSAI, THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART)
葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」に描かれた大きな波は、津波と解釈されることがあるが、沖合に発生する「巨大波」である可能性が高い。(KATSUSHIKA HOKUSAI, THE METROPOLITAN MUSEUM OF ART)
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 1826年、フランスの科学者で海軍士官でもあったジュール・デュモン・デュルビル船長は、アストロラーベ号でインド洋を横断中、激しい嵐に巻き込まれた。彼はこのとき、頭上に高さ30メートルの水の壁がそそり立つのを見たという。他にも高さ25メートル以上の波がいくつも発生し、乗組員の1人は海に投げ出されて行方不明になった。だが陸に戻ったデュモン・デュルビルがこの話をすると、他に3人の目撃者がいたのに誰にも信じてもらえず、幻を見たのだろうと言われてしまった。

 19世紀の科学者たちは、どんなに高い波でも10メートル程度にしかならないと考えていたため、当時数件あった巨大波の報告は海の神話として片付けられてしまっていた。しかし、巨大波は実在していた。記録がほとんどなかったのは、巨大波に遭遇した船員の多くが生還できず、報告できなかったからだ。

ジュール・デュモン・デュルビルが率いたアストロラーベ号とゼレ号。1840年にフランスの画家ルイ・ル・ブルトンが描いたこの絵には、1837年から1840年にかけて行われた、南極大陸の周辺を調査する航海の様子が描かれている。デュモン・デュルビルは、その10年ほど前の探検中、インド洋で高さ30メートルの波に遭遇したと語っている。(SMITH ARCHIVE, ALAMY STOCK PHOTO)
ジュール・デュモン・デュルビルが率いたアストロラーベ号とゼレ号。1840年にフランスの画家ルイ・ル・ブルトンが描いたこの絵には、1837年から1840年にかけて行われた、南極大陸の周辺を調査する航海の様子が描かれている。デュモン・デュルビルは、その10年ほど前の探検中、インド洋で高さ30メートルの波に遭遇したと語っている。(SMITH ARCHIVE, ALAMY STOCK PHOTO)
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 20世紀に入って造船技術が進歩すると、生き延びて目撃証言をする人々が増えてきた。1966年4月にはイタリアのクルーズ船ミケランジェロ号が、嵐の中を航行中、周囲の荒波をはるかに超える高さ約25メートルの巨大波に遭遇した。船は大きく損傷し、3人が溺死したが、乗船者のほとんどが無事に岸に戻ることができた。

 不運だったのはドイツのコンテナ船MSミュンヘン号の乗組員だ。1978年、この船はドイツから米国へ向かう途中の12月13日早朝、28人の乗組員全員とともに姿を消した。後日、この船の救命ボートが回収された。ボートは水面から20メートルの高さに取り付けられていたはずだったが、損傷から判断すると、少なくとも同じ高さの波によって支柱から引きちぎられたようだった。

 科学者たちの間で巨大波の実在に対する疑問が完全に払拭されたのはもっと新しく、1995年にノルウェー沖の北海にある天然ガス採掘施設「ドラウプニル」に巨大波が襲いかかったときのことだった。施設の足場に設置されたレーザー探知機で計測された波の高さは、実に26メートル近くもあった。

巨大波の科学

 今日では、周囲の平均的な波の高さ(有義波高)の2倍以上の波が「巨大波」と定義されている。巨大波は突然、どこからともなく現れる。嵐で海が荒れているときだけでなく、穏やかなときにも発生することがあって、予測が難しい。

 巨大波は津波とは異なる。津波は地震や地滑りなどに伴う海水の急激な移動によって生じるが、巨大波は海を伝わる波が偶然重ね合わさることで生じる。

 巨大波の発生機構として、「線形重ね合わせ」と「非線形集束」という2つの理論が登場した。線形重ね合わせ理論では、波はそれぞれ異なる速度で海を伝わると仮定され、これらが重ね合わさることで巨大波になるとされる。これに対して非線形集束理論では、波は集団で海を伝わり、互いにエネルギーを融通し合うため、ときに巨大波が発生するとされている。

 巨大波についてあまり明確なことが言えないのは、発生頻度がまれだからだ。現在でも、質の高い追跡データは不足している。

次ページ:水槽を使った実験で海面を再現

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