大やけどを負った皮膚は元に戻るのか? 創傷治療の最前線

幹細胞を使った治療から免疫反応の利用、皮膚培養まで

2022.05.25
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集中治療室で治療を受けるやけどの患者。(PHOTOGRAPH BY GAETAN BALLY, KEYSTONE VIA REDUX)
集中治療室で治療を受けるやけどの患者。(PHOTOGRAPH BY GAETAN BALLY, KEYSTONE VIA REDUX)
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 2020年、ジェイコブ・ハイランドさんと妻のジェイミーさん、赤ちゃんだった息子のウリエル君は、米ワシントン州コールド・スプリングスで発生した森林火災に巻き込まれた。大やけどを負い、煙を吸い込んだ3人は、敷地に沿って流れるコロンビア川までなんとかたどり着いた。ジェイコブさんとジェイミーさんは一命を取り留めたものの、ウリエル君は助からなかった。

 現在33歳のジェイコブさんは当時、全身の30%以上にⅢ度熱傷(損傷が表皮、真皮、皮下脂肪層に及ぶやけど)を負い、両手は黒焦げ状態になっていた。担当した外科医で救急医のサム・アルバビ氏によれば、ここまでの損傷になると、幅広い医療従事者からなるチームでの治療が必要だ。

 ジェイコブさんの場合、何カ月にも及ぶ入院と、十数回もの手術が必要だった。複雑な創傷、特に広範囲に及ぶ深いやけどの治療は、現在でも医療関係者にとって難しい課題だ。しかし、技術は進歩している。

「科学が私を救ってくれたのです」

 創傷(切り傷、すり傷、やけどなど)の治療は、手術を受けた患者や、自宅で切り傷を負った人、化学薬品でやけどを負った労働者など、「様々なタイプの人に必要であるため、活発に研究とイノベーションが進んでいる分野です」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校が運営する医療機関「UCLAヘルス」で重度の創傷を治療する形成外科医アンドリュー・バーダニアン氏は言う。

 科学者たちが最も注目しているのは幹細胞だ。これまで少しずつ進展してきた研究の結果、ようやく創傷治療に使える可能性が見え始めている。

「実際の治療に大いに役立つ方法であることを示唆する予備的な結果が得られています」と、米ハーバード幹細胞研究所・皮膚プログラムの共同ディレクターを務める皮膚病理学者のジョージ・マーフィー氏は言う。

 ジェイコブさんのやけどには、新製品の「NovoSorb(ノボソルブ)BTM」という生分解性合成ポリマーが使用された。これは傷を一時的にふさぎ、健康な組織の形成を助けるためのものだ。その後、ジェイコブさん自身の太ももや、死体ドナーや動物から採取した皮膚が手に移植された。他にも「RECELL(リセル)」というスプレー式の皮膚移植キットも用いられた。これは、患者自身の健康な皮膚細胞を少量採取して溶液の中で分離し、熱傷部位に噴霧することで、傷をより早く、より跡が残らないように治療することを可能にするものだ(編注:日本では2022年2月に承認)。

 石工だったジェイコブさんの手は以前ほど器用には動かず、現在はかろうじて鍵やティーカップを持つことができる程度だが、焼け焦げた手足を医師が救ってくれたことには感激している。特に、スプレー式のキットを使って治療した右手の甲の皮膚の柔らかさには驚いているという。「科学が私を救ってくれたのです」(参考記事:「屋根から落ちて骨が砕けた男性を回復させる、驚きの最新医療」

次ページ:自然治癒の限界を超える幹細胞

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