自然の海水を利用した施設「ドルフィン・クエスト・バミューダ」のラグーンを散策するハンドウイルカの子ども。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ADAIR/DOLPHIN QUEST)
自然の海水を利用した施設「ドルフィン・クエスト・バミューダ」のラグーンを散策するハンドウイルカの子ども。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN ADAIR/DOLPHIN QUEST)
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 私たち人間は笑顔、声、歩き方など、さまざまな手掛かりを頼りに友達を認識している。生物学者の間では、数十年前から、イルカも親密な友情を育み、固有のホイッスル音(鳴き声)で友達を認識することが知られている。(参考記事:「イルカは“名前”を呼ばれたら反応する」

 そして最近、ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)が味覚を使い、仲間の尿と無関係なイルカの尿を判別していると示唆する驚くべき研究結果が2022年5月18日付で学術誌「Science Advances」に発表された。(参考記事:「ハンドウイルカ」

 この研究を率いた米テキサス州スティーブン・F・オースティン州立大学の海洋生物学者ジェイソン・ブラック氏だが、実は当初から、ハンドウイルカが尿で互いを判別できるかどうかを調べようとしていたわけではない。本来の目的は、人が名前を頼りにするのと同じように、イルカも「シグネイチャーホイッスル」という個体に固有の音を駆使できるのかどうかを検証することだった。しかし、そのためには、イルカが互いを判別する方法がもう1つ必要だった。

 イルカがホイッスル音を特定のイルカの「ラベル」として概念的に使えるのかどうかを調べるため、ブラック氏は意外な物質に注目した。尿だ。以前、野生のイルカがわざわざ尿の中を泳ぐ姿が観察されているため、イルカたちは尿から情報を収集しているのではないかと考えたのだ。

「当てずっぽうでした」とブラック氏は明かす。「正直なところ、うまくいくとは思っていませんでした」

 ブラック氏のチームは飼育下のイルカを使った実験で、イルカたちは仲間の尿とホイッスル音の組み合わせにより注意を払うことを発見した。ブラック氏によれば、これはイルカたちがその個体をわかっていることを示唆しているという。

 今回の発見は、動物が味覚のみで同種の個体を判別していることを示す初めての確かな証拠だ。また、イルカは少なくとも2つの手掛かりを頼りに個体を認識しており、人間と同様、家族や友達を複雑に理解していることも示された。

「驚きでした。とにかく驚きました」とブラック氏は振り返る。「予想以上にうまくいって、私は思わず笑みがこぼれました」

調査実験にイルカも興味津々

 ブラック氏らは2016年から2017年にかけて、ハンドウイルカの繁殖コンソーシアムを兼ねるバミューダとハワイのイルカ交流施設「ドルフィン・クエスト」で数頭のハンドウイルカを観察した。これらの施設では、野生の生息環境を再現しており、自然の海水を利用したラグーンでイルカたちが暮らしている。

 研究チームはまず、イルカが海水中の尿を感知できるかどうかを確かめた。ハンドウイルカは進化の過程で嗅覚を失ったが、強い味覚を保持している。

 研究チームは広いプールでイルカたちを分離したうえで、尿と比較するためにプールの水に氷水を注ぎ、それぞれのイルカがどのように反応するかを観察した。氷水を調べるイルカは好奇心旺盛で、実験の候補に適している。次に、氷水と尿への反応に違いがあるかどうか、よく知っている尿と知らない尿で反応が異なるかどうかを調べる必要があった。

 研究チームは少なくとも5年は一緒に暮らしていることを基準に、どのイルカが互いをよく知っているかを判断した。そして、コイントスで順番を決め、よく知っているイルカの尿と知らないイルカの尿を約20ミリリットルずつプールに注いだ。

 イルカたちはよく知っている尿を調べるとき、知らない尿の約3倍の時間をかけた。20秒以上じっくり調べている個体も数頭いた。一方、知らない尿にはほとんど注意を払わず、調べる時間は氷水と変わらなかった。

次ページ:深まるイルカの味覚への関心

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