この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年6月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
インドを流れる聖なる川、ガンジス。だがこの大河は海洋汚染の大きな源になっている。
過去10年間で、世界の人々は、プラスチックごみが私たちの海を汚し続けていると気づくようになった。
それ以来、拡大し続ける危機を解決しようと、数多くの創意工夫に富んだ取り組みが行われてきたが、あまり効果は出ていない。2040年には、海に流出するプラスチックの量は3倍近くに増え、年間2900万トンになると予測されている。それは平均すると、世界中の海岸線に、50キログラムのプラスチックごみが1メートルごとに打ち上げられる量に相当する。
まだ手遅れではないと科学者は言う。ただし、これから本腰を入れて取り組めばの話だ。
これまでの研究で、海に漂うプラスチックごみは、プランクトンから魚やカメ、クジラまで、幅広い野生生物の命を脅かしていることが判明した。一方、そのごみがどのようにして海にたどり着くのかは、あまり研究されてこなかった。だが、河川、とりわけアジアの河川が、主要な流入経路になっていることは間違いない。
2019年、ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、ガンジス川の調査プロジェクトが行われた。ガンジス川はインド北部とバングラデシュを流れ、河川流域としては世界最大級の面積と人口を有する。インドやバングラデシュ、米国や英国から集まった科学者、技術者、支援スタッフで構成された総勢40人のチームは、ガンジス川が大幅に増水するモンスーン(雨期)の前と後の2回にわたり、源流域から河口までを調査した。川の水や陸地、周辺の大気のサンプルを採取し、1400人を超す住民に聞き取り調査を行い、どのような種類のプラスチックが、どこで、なぜガンジス川に流入し、インド洋にたどり着くのかを調べた。
「問題をはっきりさせないことには解決しようがありません」と、調査隊リーダーの一人であり、米ジョージア大学で環境工学を研究するジェナ・ジャムベック教授は言った。2015年の彼女の研究は革新的なもので、毎年、平均で800万トンものプラスチックが海に流入しているという推定を発表し、海洋プラスチックが環境問題における最重要課題の一つとして認識されるきっかけをつくった。多くの専門家と同様に、ジャムベックも、問題を解決するには、大半のプラスチックごみの発生場所である陸上においてプラスチックの量を減らし、せき止める必要があると考えている。
*ファラッカ堰よりも下流におけるピーク時(モンスーン後)の流量データは不明。
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