古人類の歯が発見されたラオスのコブラ洞窟。緑豊かな急斜面にある狭い空洞だ。科学者たちはロープを使ってこの洞窟にアクセスした。(PHOTOGRAPH BY FABRICE DEMETER)
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 ラオスのアンナン山脈で急勾配の岩場をよじ登ったとき、ローラ・シャッケルフォード氏はあまり期待していなかった。米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の古人類学者であるシャッケルフォード氏は、コブラ洞窟と呼ばれる狭い空洞に立ち、地元のモン族の少年が見たという骨を探していた。懐中電灯をつけて、一見何もなさそうな壁から壁へと光を走らせた。

 そして、天井を見上げた。

「ほとんど骨しか見えませんでした」とナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるシャッケルフォード氏は振り返る。ゴツゴツした岩の天井には、大昔に死んだ動物の化石が埋め込まれていた。氏は「星空のようだった」と例える。

 シャッケルフォード氏のチームは長年、迷路のようなラオスの洞窟で古代人の遺物を探し続けてきたため、この狭い通路が特別な場所であることはすぐにわかった。氏がこの洞窟を初めて訪れる直前、同僚がさまざまな遺物の中から特に興味深い化石を発見していた。溝が多く入った、13万年以上前の大臼歯の一部だ。

 シャッケルフォード氏らは5月17日付けで学術誌「Nature Communications」に論文を発表し、この歯はデニソワ人と呼ばれる古人類の少女のものだった可能性が高いと報告した。この報告が正しいと証明されれば、謎に包まれたデニソワ人の化石としては、これまでで最南端に位置することになる。この研究はナショナル ジオグラフィックの資金援助を受けている。

 約40万年前、デニソワ人はネアンデルタール人から分岐した。ネアンデルタール人はヨーロッパに散らばり、デニソワ人は東のアジアに移動した。ネアンデルタール人の遺物はいくつも見つかっているが、デニソワ人の化石はなかなか発見されない。これまでにデニソワ人のものと確認された骨と歯はわずかしかなく、すべてシベリアとチベットの2カ所で発掘されたものだ。

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 しかし、科学者たちの間では長年、デニソワ人はもっと南に到達したのではないかと考えられていた。デニソワ人は初期の現生人類と出会うたびに交雑したようで、その遺伝的な痕跡がアジア系の現代人のほとんどに見られる。

 このたびのラオスでの発見は、極寒の山地や高原から蒸し暑い東南アジアの低地まで、デニソワ人が驚くほど多彩な環境に暮らしていたことを明らかにした。「どこか私たちと似ているような気がします」とシャッケルフォード氏は話す。「私たちはとても柔軟性が高く、それが現生人類ホモ・サピエンスの特徴でもあります」

 デニソワ人のものと思われる歯は、今回発見された数多くの遺物の一つであり、この地域でさらに多くの発見が待ち受けていることを示唆している。研究に参加したラオス情報文化観光省の考古学者ソウリファン・ボウアラファン氏は「私たちはとても誇りに思っています」と語る。

次ページ:今回見つかった歯の化石の写真

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