フランス軍を率いてイングランドと戦ったジャンヌ・ダルクは、1431年5月30日、魔女であるという罪でイングランドによって処刑された。その遺体は、3度にわたって焼かれた。(IMAGE COURTESY OF GL ARCHIVE/ALAMY STOCK PHOTO)
フランス軍を率いてイングランドと戦ったジャンヌ・ダルクは、1431年5月30日、魔女であるという罪でイングランドによって処刑された。その遺体は、3度にわたって焼かれた。(IMAGE COURTESY OF GL ARCHIVE/ALAMY STOCK PHOTO)

 15~17世紀にヨーロッパと米国で起こった魔女狩りは、人類史上で最も悪名高い出来事の一つだ。多くの人々が不当に魔女の嫌疑をかけられて拷問を受け、殺された。そして、そのほとんどは女性だった。(参考記事:「「魔女狩り」観光で潤う街、悲劇を正しく伝えているか」

古代の治療師

 不思議な力を使って日常の出来事を変えようとする「魔術」という概念は、古代から存在した。紀元前18世紀のハンムラビ法典には、魔術を行った者への罰則規定が定められていた。魔女は、良い存在とみなされることもあれば、悪い存在とみなされることもあった。一般的に、人を助ける白魔術は善、人を傷つける黒魔術は悪とされる。

 魔術を行う者には女性が多く、彼女たちは病気を治したり、出産を助けたり、失くしたものを見つけたりするなど、近所の人々に頼られていた。しかし、病気や死、嵐、地震、干ばつ、洪水など何か悪いことがあった時も、魔女のせいにされた。

 特別な力を持つ女性が、神として崇められることもあった。古代ギリシャの女神ヘカテは、魔法と呪文の女神として、天と地、海を支配した。同じくギリシャ神話には、英雄イアーソーンを手助けするメーデイアという魔女が登場する。

 しかし一方で、こうした魔女は、神に反する呪文を唱えたり、物の姿を変えたり、天の法則を曲げているとして人々から恐れられることもあった。聖書は、そのような悪に対して警告を発している。「女呪術師を生かしておいてはならない」(日本聖書協会『新共同訳 旧約聖書』出エジプト記22章17節)。「男であれ、女であれ、口寄せや霊媒は必ず死刑に処せられる。彼らを石で打ち殺せ。彼らの行為は死罪に当たる」(日本聖書協会『新共同訳 旧約聖書』レビ記20 章:27節)

中世ヨーロッパの苦難

 中世に入り、ヨーロッパで黒死病(ペスト)が流行し、宗教戦争が起こると、人々は魔女や狼男などの超自然的な悪の力が社会を破壊しようとしていると信じるようになった。(参考記事:「ヨーロッパ人の1/3が死んだ「黒死病」、歴史の教訓」」

 ローマ教皇にとって、あらゆる災難を魔女のせいにするのは簡単なことだった。15世紀のキリスト教会は、エデンの園に罪をもたらしたのは最初の女性であるイブだと信じていたため、時のローマ教皇インノケンティウス8世の審問官たちは、主に女性を標的にして魔女を洗い出そうとした。市民の間で少しでも口論が起きたり苦情が出れば、魔術を使っていると訴えられた。一度疑いをかけられた者は、拷問されて自白を強要された。さらに、仲間の名前を挙げさせられ、その全員が捕らえられて絞首刑か火刑に処せられた。

 フランスの聖人ジャンヌ・ダルクも、魔女であるという罪で処刑された一人だ。イングランドとフランスの間で戦われた百年戦争の時代、農民の娘だったジャンヌ・ダルクは、イングランドと戦うよう啓示を受けた。そして、フランス軍を率いてオルレアンの町の解放に貢献したが、1431年にイングランドに捕らえられ、わずか19歳にして火刑に処せられた。しかし、1920年にはローマ教皇ベネディクトゥス15世によって列聖され、ジャンヌ・ダルクは異端判決を受けた唯一の聖人となった。

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