同時に、ドイツ国民はまだそれほど犠牲を要求されていないのだとクアシュニング氏は指摘する。「今はウクライナが好きだと言っていても、ガソリンが1リットルあたり2.5ユーロ(約275円)になれば、また意見は変わってくるでしょう」
幸いなことに、再生可能エネルギーのコストが下がると同時に、エネルギー転換に対する国民の支持は高まっている。また、ドイツをはじめとする欧州諸国はまだロシアから天然ガスを輸入し続けているが、そのコストはますます高くなっている。そして、米国を含む他の供給国にシフトすると、ガスを液体で輸送することになり、さらにコストが高くつく。
「以前から欧州のエネルギー市場は価格が上昇していました」と、ドイツ再生可能エネルギー連盟の代表で緑の党の元代表であるシモーネ・ペーター氏は言う。「新政権はこれを大きなチャンスと捉えたのです」
一方、長年にわたって再生可能エネルギーに補助金を出してきた結果、風力や太陽光の電力は化石燃料で発電した電力よりも安価になった。「これらの技術は非常に安価なので、世界的に見ても再生可能エネルギーは競争力があります」とペーター氏は言う。「石油や石炭を産出する国の投資家すらも、今やその方向に向かっています」
電力以外のエネルギー需要に関しては、短期的に見ると満たすのは難しいかもしれない。ドイツの家庭の半数は暖房に天然ガスを使用している。次の冬を前に、電気ヒートポンプの導入や断熱材の強化などが急がれる。2025年からは、建物の暖房のほとんどを再生可能エネルギーで賄うことが義務付けられる予定だ。
「暖房の転換も必要です」とヘネベルガー氏は言う。「それだけでもかなりのガスを節約できるはずです」
冬に自宅で凍えるわけにはいかない
EU諸国がロシアへの制裁として、あるいはロシアがウクライナを支援する欧州への反発として、ロシアからのガス供給が突然停止となることも、事態を大きく変える可能性がある。ロシアはすでにポーランドとブルガリアを遮断している。
「明日エネルギー供給が止まったとしたら、社会的にも経済的にも大変なことになります」とペーター氏は言う。「秋になれば省エネについて真剣に考える国民が増えると思います。ガスが止まったら自宅で凍えることになると思えば、考えざるを得ないでしょう」
これまでのところ政治家たちは、1970年代に見られた「カーフリーサンデー(自動車を使わない日曜日)」や、暖房の温度を下げるキャンペーンのように、有権者に省エネを要求することには消極的だ。先月、ドイツの雑誌『シュピーゲル』が行った世論調査では、ロシアからのエネルギー供給を断つために犠牲を払ってもよいと答えた人は49%だった。しかし、最終的に、選択肢はないかもしれない。
「化石燃料をどの国から輸入するかは問題でないとの考えが間違っていることが証明されたのです。今、改めて考えると、エネルギー転換においてドイツや他の欧州諸国がロシアを信頼したのは間違いでした」とバック氏は言う。「しかし、『後から考えればそうだった』というのは人間の常です」