ロシア頼りだったエネルギー政策、ドイツが直面する不愉快な現実

再生可能エネルギーの導入が加速、だが大きな見直しだけに課題も多い

2022.05.12
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 社会民主党と緑の党の新連立政権は、緑の党の党首であるハーベック経済・気候保護相の主導で、自然エネルギーへの支援を強化するという侵攻前の公約を実行に移しつつある。法案では、再生可能エネルギーは「最優先の公益であり、公共の安全に役立つ」と宣言されている。平凡に聞こえるかもしれないが、再生可能エネルギーに関するプロジェクトが法的・環境的課題を乗り越えて許可を得やすくするものだ。

4月6日、ベルリンのドイツ連邦議会議事堂の前に、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモ隊が集結。今のところドイツはロシア産の化石燃料、特に天然ガスに大きく依存しているが、デモ隊はロシア産化石燃料の禁輸措置を要求した。(PHOTO BY ANNETTE RIEDL, PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES)
4月6日、ベルリンのドイツ連邦議会議事堂の前に、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモ隊が集結。今のところドイツはロシア産の化石燃料、特に天然ガスに大きく依存しているが、デモ隊はロシア産化石燃料の禁輸措置を要求した。(PHOTO BY ANNETTE RIEDL, PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES)
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 法案には、より具体的な優遇措置も含まれている。エネルギーベンデの原点に立ち返り、市民が屋根に太陽光パネルを設置したり、地域に太陽光発電所を建設したりすることが奨励されている。また、新しい商業ビルには太陽光パネルの設置が義務付けられる。

 連邦政府はさらに、建物から1km以内の風力発電機設置を禁じている州に対して、規制を緩和するように圧力をかけている。建物が密集する同国において、風力発電を導入する際にハードルになっている規制だ。

 太陽光発電や風力発電の設置にかかる価格が着実に下がっていることに加え、こうした変化によって、2030年までに陸上風力発電を2倍、太陽光発電を4倍にすることが可能だと政府は考えている。洋上風力発電も大幅に増える見込みだ。

クリーンエネルギーへの架け橋だったガス

 ウクライナ侵攻以前に立てられた計画は、ロシアの天然ガスへの依存が前提だった。再生可能エネルギー分野を強化する間、温室効果ガス排出量の多い石炭火力発電所を閉鎖していこうとの考えからだった。この考え方が現在、疑問視されている。

「天然ガスはクリーンエネルギーへの架け橋と考えられていたのです」とバック氏は述べる。「その橋が壊れてしまったのです。これによって議論が変わってきています」。ドイツはすでに、ウクライナ侵攻時に110億ドルをかけて完成間近だったロシアからのパイプライン「ノルドストリーム2」の承認プロセスを凍結している。

 現在は、熱心な環境保護主義者たちでさえ、目標である2030年を過ぎても石炭発電所を稼働させてはどうかと話している。しかし、それは短期的な危機の場合に限られるとヘネベルガー氏は言う。「我々は石炭から脱却するという長期的な決断を下しました。それを変えることはできません」

 原子力発電への回帰も考えられないと同氏は言う。ドイツは10年前、福島での原発事故の後、既存の原子力発電所を段階的に停止することを決定した。最後の3基は今年中に停止する予定だ。

 したがって、今後数年間、ロシア産天然ガスの輸入に代わるドイツの選択肢は、新しい天然ガス供給元を見つけること、そして自然エネルギーへの移行をさらに強く推し進めること、になる。

電力以外の分野にも進展が必要

 エネルギーベンデは電力セクターで最も進んでいるが、2045年までに温室効果ガス排出量をゼロにするというドイツの目標達成のためには、輸送、製造、暖房など他のセクターでも進展が必要であることが浮き彫りになってきている。専門家によれば、世論は変化しており、おそらく近い将来、より積極的な措置が可能になるだろうと言う。

 例えば、時速160キロで走る車も珍しくない高速道路に、速度制限を導入するという案がある。車社会であるドイツにおいては、賛否が大きく分かれるところだ。

「ウクライナでの戦争前は、ドイツ国民の意見は半々でした」と、ドイツ、ベルリン応用科学大学の再生可能エネルギーシステム教授のフォルカー・クアシュニング氏は言う。「今では3分の2の人が賛成しています。化石燃料を使う暖房やディーゼル車、風力発電についても同じです。世論に大きな変化が起きているのです」

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