体重わずか7グラムの1歳のメスのコウモリが、ロシアからフランスアルプスまで、2486キロメートルを飛んだことが判明した。これまで記録された中で、もっとも長い距離を移動したコウモリだ。この研究結果を示した論文が、2022年4月21日付けで学術誌「Mammalia」に発表された。(参考記事:「コウモリは動物界のスーパーヒーロー、5つの理由」)
これまでの最長記録は、2017年にラトビアからスペインまで、2224キロを飛んだナトゥージウスアブラコウモリだった。今回この記録を塗り替えたのも、同じ種のコウモリだ。
ナトゥージウスアブラコウモリは、赤茶色の毛皮と翼開長20センチほどの翼を持つヨーロッパのコウモリだ。このコウモリが数百キロの距離を移動することは以前から知られていた。だが、スペインのマドリードにあるコウモリ保護研究協会の代表を務めるファン・トマス・アルカルデ氏によると、今回の記録は、長距離移動がこのコウモリの生活サイクルの一部である可能性を示唆しているという。なお、前述の2017年のコウモリの移動は、この協会が記録したものだ。(参考記事:「コウモリをも食べる肉食コウモリ「チスイコウモリモドキ」」)
アルカルデ氏はメールでこう述べた。「同じ方向に2200キロ以上移動した例が2回記録されたのは、偶然ではありません。この種には、ヨーロッパ全域を長距離移動している集団がいるのです」
今回の新記録の発見に欠かせない役割を果たしたのが、フランスの「山岳生態系における動物相の研究情報グループ」(G.R.I.F.E.M)に所属する動物生態学者ジャン=フランソワ・デスメ氏だ。
2009年秋、フランスアルプスの村のそばにある貯水槽の中でコウモリの死体が見つかったと聞いたとき、デスメ氏は興味を覚えた。村民が撮影した写真を見ると、コウモリには「ロシア」という言葉と番号が刻まれたアルミ製のバンドがつけられていた。デスメ氏は長い年月をかけて調べ、ロシア北西部のダーウィン自然生物圏保護区でこのバンドをコウモリに取りつけたロシア科学アカデミーの研究者、デニス・ワセンコフ氏を探し出した。(参考記事:「昼に活動するコウモリを発見、夜行性の謎を解く?」)
デスメ氏はメールでこう述べた。「ようやく彼を見つけて連絡が取れたのは、2021年3月でした。そこから、このコウモリの移動の重要性がわかってきたのです」。同氏は、今回の論文の著者だ。
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