分岐した宇宙はどこにある?
分岐した宇宙は、私たちがアクセスできない次元で重なり合っている。米マサチューセッツ工科大学のマックス・テグマーク氏は、分岐した宇宙の中で複数のシナリオがパラレルに展開されるこのような考えを「レベル3のマルチバース」と呼んでいる。
「多世界解釈では、原子爆弾が存在していても、いつ爆発するかはわかりません」とリンデ氏は言う。そうした現実の中には、原爆が爆発しない世界もあるかもしれない。
これに対して、一部のインフレーション宇宙論が予言するマルチバースでは、宇宙ごとに基本的な物理学が異なっている可能性がある。テグマーク氏は、こうした考えを「レベル2のマルチバース」と呼んでいる。リンデ氏は、インフレーション・マルチバースでは、「宇宙の場所によっては、原子爆弾が原理的に可能であるかどうかもわかりません」と言う。
マルチバースの間を移動することはできる?
残念ながら、それはできない。科学者たちは、少なくとも今のところはマルチバースの間を移動することは不可能だと考えている。
「私たちの物理学はかなり堅固に確立されていますが、これらが完全に間違っていないかぎり、マルチバースの間を旅することはできません」とジーグフリード氏は言う。「でも、誰にもわかりませんよ。今から1000年後には、私たちが想像もしなかったようなことが明らかになるかもしれません」
マルチバースの実在を示唆する直接的な証拠はある?
マルチバースが宇宙のある種の性質をうまく説明できるように見えても、マルチバースの実在を示唆する直接的な観測は行われていない。今のところ、マルチバースの概念を裏付ける証拠は、純粋に理論的・哲学的なものしかない。
ある専門家は、ビッグバンによって、私たちが存在するのにちょうど良い完璧なバランスの宇宙が作られたのは、壮大な偶然にすぎないのかもしれないと主張する。またある科学者は、物理的な宇宙はいくつも存在していて、私たちは生存に適した性質の宇宙に住んでいるにすぎないと考えている。
カカリオス氏は、小さなポケット宇宙(泡宇宙)が無限に存在していて、なかには私たちの宇宙とは異なる物理学や、異なる物理定数をもつ宇宙もあるという考え方は魅力的なのだと言う。「こういう概念を真剣に考える人がいるのは、ある種の哲学的な問題を解決するのに都合がいいからです」
科学者たちは、マルチバース理論が経験的に検証可能であるかどうかを議論している。マルチバースのほかの宇宙は、定義上、私たちの宇宙とは独立した存在であり、アクセスできないのだから、検証は不可能だとする意見もある。けれどももしかすると、私たちは正しい検証法を見いだしていないだけなのかもしれない。
マルチバースの存在が明らかになる日はくるの?
その日はこないかもしれない。しかし、マルチバースはさまざまな理論にもとづく予想の1つであり、これらの理論はほかの方法で検証することができる。こうした理論がすべての検証に耐えたら、マルチバースの存在も確定するかもしれない。あるいは、新しい発見によって、観測可能な宇宙の向こうに何かが存在するのかどうかが明らかになるかもしれない。
「宇宙は、ちっぽけな惑星に住む原始的な生物の想像や検証に束縛されるものではありません」とジーグフリード氏は言う。
「私たちは、『これは検証できないから現実ではない』と言いますが、それは自分たちが検証法を知らないということにすぎません。私たちはいつの日か検証法を思いつくかもしれませんし、思いつかないかもしれません。でも、宇宙は私たちのことはお構いなしに、好きなようにやっているのです」
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