固い殻をまとう生き物には、成長のために避けては通れない過程がある。その殻を脱ぐことだ。
地球上で最も種数の多い動物群である節足動物は、すべて「外骨格」と呼ばれる固い覆いによって体を支え、捕食者から身を守る。カニの殻からテントウムシのつやつやの背中まで、外骨格の形や大きさはさまざまだが、そのほとんどが同じ「キチン」という線維性の物質でできている。
成長期の節足動物では、時期が来るとホルモンの働きにより脱皮が始まる。外骨格の外層「クチクラ」とその内側の「表皮」との間に、新たなクチクラが作られる。そこで動物が大量の空気を取り込み、体の周りの体液が移動することで、外骨格では弱い縫合部に裂け目ができる。
ゴキブリであれば「背中の中心が真っ二つに割れ」、「おそらく20分もかからずに出てきます」と、米オクラホマ州立大学の昆虫学者、アンドリーヌ・シュフラン氏は説明する。
カニのような水生甲殻類であれば、水を取り込んで縫合に圧力をかけることで、ぴたぴたの古い殻を脱ぐ。その様子は、あたかも封筒にピッタリと収まった手紙を取り出すかのようだ。
甲殻類の脱皮では殻を丸ごと脱ぐため、「海岸にはあらゆる大きさのカニやカブトガニの完璧な抜け殻が散らばっています」と、米コネティカット大学の進化生物学者、クリスティーン・サイモン氏はメールで教えてくれた。
タランチュラやサソリのようなクモ綱の生物の場合は、そこまで外骨格が柔らかくないため、「まず頭の部分を脱いで、その穴から残りの体を引き出します」とシュフラン氏は言う。(参考記事:「タランチュラは足から糸を出す」)
カメが甲羅を脱ぐのは、古いマンガの中だけの話だ。実際は、カメの甲羅は骨格の一部で、「50個ほどの骨が、複雑な幾何学模様のように並んでできています」と、米地質調査所の調査生態学者、ジェフリー・E・ロビッチ氏は説明する。
抜け殻から居場所がわかる
ロビッチ氏によれば、この骨質の甲羅の表面をケラチン質の鱗(うろこ)からなる甲板が覆っている。カメは皮をむくようにこの甲板を剥がすことで、甲羅に生える藻類が増えるのを防ぎ、甲羅が大きくなることを助けている。(参考記事:「甲羅進化の謎に迫る最古のカメを発見」)
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