10年前、イタリアの歴史家や考古学者らが、十字軍の騎士たちがノルマン語で記したシチリア島内陸部の古道を地図にまとめる作業を始めた。ほとんど忘れられていたこれらのルートは、巡礼路「ヴィア・フランチジェナ」の一部だ。ヴィア・フランチジェナは、英カンタベリーからイタリア、ローマ、そして南東の聖地へと続く、かつてヨーロッパで最も古く、最も人気があった巡礼路である。
シチリア島の巡礼路は、ギリシャ人、ローマ人、ノルマン人、アラブ人、アラゴン人などが何世紀にもわたって利用し、現在でもその痕跡が残っている。シチリア島の住人たちは、数千年の歴史を持つ巡礼路に新しいトレッキングコースを作り、観光客を増やそうという野心的なプロジェクトを始めた。
80の自治体と6つのカトリック教区が参加したルート復活プロジェクトは2017年に完結、海岸沿いの都市パレルモからアグリジェントまで、島の南北を貫く全長180キロメートルの巡礼路「マグナ・ヴィア・フランチジェナ」が完成した。このコースを歩けば、至るところで巡礼パスポートにスタンプを押してもらえ、終点の地アグリジェントの大聖堂ではテスティモニアム(完歩証明書)が待っている。
自然の魅力に包まれた巡礼
友人と私(筆者のSarah Barrell氏)は、島を縦断する巡礼の旅に出た。パレルモ郊外で、ピクニック用のパニーニを詰めた後、パスポートにスタンプを押してくれたのは地元のバリスタ。巡礼路では、こうした地元のバーや店、教会、宿が巡礼者を歓迎してくれる。

コースを進むと、そこはシチリアの穀倉地帯。小麦畑と泥まみれの家畜の間に、ヤシやアロエ、サボテンの渓谷が不釣り合いなほど亜熱帯的に見えてくる。
道沿いに等間隔で設置された柱には目印である赤と白の縞模様が描かれ、未舗装の道を進むよう私たちを促してくれる。
さらに歩いてようやく電波が届くようになった携帯電話には、フランチジェナの仲間たちからのメッセージが入っている。ツアーオペレーターの「UTracks」は、旅のメモや地図、オフラインのGPSアプリに加え、地元のボランティアネットワークにもつないでくれる。温かい食事から手ごろなベッドまで、巡礼者を支援し、必要なときには緊急支援もしてくれるのだ。(参考記事:「聖地巡礼ブームが花開かせた尊い美、ロマネスク建築とは」)