コヨーテの優れた適応能力と巧みな戦術はよく知られている。このしたたかな動物は、かつての生息地の大半に再び定着し、人間の生活圏の周辺にも新たに進出している。
コヨーテ(Canis latrans)は中位捕食者として知られる中型の肉食動物で、人間の近くでは慎重に行動するが、人間以外の大型捕食者の周囲では思い切った賭けに出る。新たな研究により、コヨーテは、ピューマ(Puma concolor)が仕留めたエルク(Cervus canadensis、アメリカアカシカ)などの獲物を、頻繁に盗んだり食べ残しをあさったりしていることが明らかになった。だが、こうしたリスクが高い行動にはコストが伴い、コヨーテがピューマの餌食となることも珍しくない。
この調査は米国オレゴン州の研究者たちが実施した。それによると、研究対象地域に生息するコヨーテの23%が毎年、ピューマに殺されていたと推定された。おそらく獲物を巡る争いの結果だろう。というのも、コヨーテの餌の半分以上はピューマが殺したエルクの肉であることが判明したからだ。
この論文は、2021年8月24日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。中型肉食動物がこうしたリスクを、これまで予想されていたよりも頻繁に冒している実態については最近、報告が相次いでいる。
2020年3月17日付けで学術誌「Ecology Letters」に発表された論文によると、全世界の中型肉食動物の死因の約3分の1は、ピューマやオオカミなどの大型肉食動物によるものだという。一方、コヨーテ、ボブキャット(Lynx rufus)、アメリカクロクマ(Ursus americanus)といった中型の捕食者は、餌の約30%を頂点捕食者が仕留めた獲物から得ている。
「リスクが高いにもかかわらず(獲物を横取り)するのは、コヨーテは自力で(シカなどを)捕食できないからでしょう」と、米ワシントン大学のローラ・プルー准教授は話す。プルー氏は、こうした関係性に着目し、上記の「Ecology Letters」に発表した論文を執筆した。「コヨーテは、大型肉食動物が残した形跡の鮮度を調べたり、警戒を強めたりして、リスクを見極めることができるという可能性もあります」
このリスクを伴う行動、あるいはプルー氏の言う「恩恵をもたらす敵」は、生態系や関与する動物種によって異なる結末をもたらす。これらの論文が共通して指摘するのは、肉食動物を生息域から排除したり復帰させたりする試みによって、予測困難な結果がもたらされる可能性だ。
「ネコの存在はコヨーテに影響しますし、コヨーテの存在もネコに影響します。オオカミはコヨーテに影響を及ぼし、コヨーテもオオカミに影響を及ぼします」と、米ワイオミング大学の研究者、ケビン・モンティス氏は説明する。「動物のあらゆる行動には、必ず相互作用があるのです」
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