9500万年以上前、現在のモロッコのサハラ砂漠にあたる地域には大河が流れ、スピノサウルスという奇妙な恐竜が生息していた。体長は15メートル、体重は7トンで、ワニのような長い口には円錐形の歯が並び、頭頂部にはとさかがあった。
スピノサウルスとその近縁の恐竜が水と強く結びついた生活をしていたことは、古生物学者の間で意見が一致している。だが、“怪物魚”のように水中を泳いで魚を捕食していたのか、サギのように岸辺で獲物を狙っていたのか、あるいはその中間なのかをめぐっては、以前から論争が続いている。
研究者たちは今回、膨大なデータを用いて、先史時代の肉食動物の骨密度を、さまざまな現生種や絶滅種と比較した。分析の結果、スピノサウルスと、その仲間で英国で発見されたバリオニクスは、骨密度がペンギンのように高かったことが明らかになった。これは、彼らが多くの時間を水中で過ごし、水中の獲物を狩っていた可能性を示唆している。(参考記事:「恐竜の新種が2種見つかる、スピノサウルスの仲間、英国」)
「スピノサウルスは、浅瀬を歩くこともあったかもしれませんが、生態としては水中生活を送っていたのが特徴です」と、3月23日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された論文の筆頭著者で、米フィールド自然史博物館の博士研究員であるマッテオ・ファブリ氏は言う。
この新発見は、スピノサウルスとその仲間を含むスピノサウルス類の恐竜が、非鳥類型恐竜としては唯一、水中生活に適応していたとする説を補強するものだ。最近も、世界で初めて発見されたスピノサウルスの尾の化石が、パドルのような奇妙な形をしていることが明らかになり、泳ぐために使っていた可能性が指摘されていた。(参考記事:「スピノサウルスの意外な尾を発見、実は泳ぎが得意だった」)
「骨は嘘をつきません」と、今回の論文の最終著者である英ポーツマス大学の古生物学者ニザール・イブラヒム氏は言う。氏はナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもある。「スピノサウルスは、私たちの想像以上に水生動物だったのです」
とはいえ、スピノサウルスがどのように泳ぎ、魚などの獲物を追いかけていたのかは、まだ詳しくはわかっていない。細長い体や、背中にあった巨大な帆のような突起は、他の水生生物に比べてあまりにも異例であり、科学者を当惑させ続けている。
カナダ、ロイヤル・ティレル古生物学博物館の古生物学者ドン・ヘンダーソン氏は、「スピノサウルスの骨密度が非常に高かったことに疑いはありませんが、水中に潜るのに十分なほど重かったのでしょうか?」と疑問を投げかける。氏は2018年に、スピノサウルスの体は水に非常に浮きやすかったと示唆する論文を発表している。(参考記事:「最凶の“半水生”魚食恐竜、実は泳ぎがヘタだった」)
「ペンギンの泳ぎを観察するとわかりますが、ペンギンは水中で羽ばたきを止めた途端に、水面に向かって浮かび上がっていきます」とヘンダーソン氏は説明する。「スピノサウルスがあの体で苦もなく水中にとどまる方法など、私には思いつきません」
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