不思議がいっぱい タツノオトシゴ

世界中で46種が確認。雄が出産するユニークな魚が絶滅の危機に

2022.03.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む
ウェスタンスパイニーシーホースのペア(左が雄)が、体を安定させるために尾をからませ合う。タツノオトシゴは、ほぼ世界中の沿岸部に生息するが、乱獲や生息地の喪失により、個体数が減少している。(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)<br>HIPPOCAMPUS ANGUSTUS<br>撮影地:シーホース・ワールド(オーストラリア)
ウェスタンスパイニーシーホースのペア(左が雄)が、体を安定させるために尾をからませ合う。タツノオトシゴは、ほぼ世界中の沿岸部に生息するが、乱獲や生息地の喪失により、個体数が減少している。(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)
HIPPOCAMPUS ANGUSTUS
撮影地:シーホース・ワールド(オーストラリア)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年4月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

タツノオトシゴは、ウマなどほかの動物を組み合わせたような外見で、雄が出産するユニークな魚だ。しかし今、絶滅の危機にひんしている。

 ポルトガル南部のリア・フォルモーザと呼ばれる潟(かた)を泳いでいると、生物学者のミゲル・コレイアが海底を指さした。

 私はじっと見つめ、首を横に振った。彼は1点を指し示した。さらに近くまで泳いでいき、目を凝らす。砂や海藻や岩しかない。いら立った私の息が泡になって立ち上った。

 だがそれは、突然見えた。今までずっと見つめていた海藻の中にいたのだ。体長7.6センチ、くすんだ黄色の体に、ウマのたてがみのような皮弁(ひべん:皮膚が変化したもの)があるタツノオトシゴの一種、ロングスナウテッドシーホースだった。その後の潜水で、近縁種のショートスナウテッドシーホースも見つけた。どちらも、この潟にすむ在来種だ。

ポットベリーシーホースの雄。頭部に見られる皮弁は、個体ごとに異なる。人間で言えば指紋のようなものだ。<br>HIPPOCAMPUS ABDOMINALIS<br>(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)<br>撮影地:スクリップス海洋研究所付属バーチ水族館(米国)
ポットベリーシーホースの雄。頭部に見られる皮弁は、個体ごとに異なる。人間で言えば指紋のようなものだ。
HIPPOCAMPUS ABDOMINALIS
(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)
撮影地:スクリップス海洋研究所付属バーチ水族館(米国)

 タツノオトシゴは、南極を除くすべての大陸の沿岸海域に生息し、世界中で46種が確認されている。過去10年間で4種が新種として記載され、今後も、種の数は増えそうだ。

 コレイアの話によると、つい最近までは、ポルトガル南部のアルガルベ地方にあるリア・フォルモーザに200万匹ものタツノオトシゴが生息していたという。

 アルガルベ大学の海洋科学センターで生物学を研究するコレイアは、同僚とともに臨海施設でタツノオトシゴの繁殖と研究を行っているが、前述の2種の生息数は激減したという。「この20年弱で、9割近くも減っています」

 こうした減少は広く見られる。理由の一つに、タツノオトシゴの生息地が、河口やマングローブ林、藻場やサンゴ礁など、世界で最も環境破壊が進む海域にあることが挙げられる。

 しかし、最大の脅威は漁業だ。漁獲規制が行われておらず、乾燥させたタツノオトシゴは広く取引されている。底引き網のように、海底をさらう漁具によって目当てのもの以外の生物が漁獲される「混獲」で水揚げされたタツノオトシゴは、中国の伝統薬の材料や装飾品として、世界中で売買される。また、量は少ないが、観賞用としても、主に米国向けに販売されている。

雄が出産するユニークな魚

 さまざまな動物を組み合わせたような外見のタツノオトシゴは魅力的だ。ウマのような頭部に、カメレオンのような左右別々に動く目と擬態の能力。カンガルーのような育児嚢(のう)に、サルのように物に巻きついて体を安定させる尾。体色はさまざまで、斑紋や縞(しま)模様、こぶや棘(とげ)、レース状の皮弁など、外見の特徴も多様だ。鱗(うろこ)がない代わりに硬い骨板で体が覆われていて、食べ物を蓄える胃がないため、ほぼ常にカイアシ類やエビ、魚の幼生などの微細な獲物を吸い込む。

<span style="font-size: 12px; ">ロングスナウテッドシーホース</span>
ロングスナウテッドシーホース
H. guttulatus
<span style="font-size: 12px; ">ショートスナウテッドシーホース</span>
ショートスナウテッドシーホース
H. hippocampus
<span style="font-size: 12px; ">バーバーシーホース</span>
バーバーシーホース
H. barbouri
<span style="font-size: 12px; ">ドワーフシーホース</span>
ドワーフシーホース
H. zosterae
確認されている46種のタツノオトシゴの一部。大きさや色、頭頂の突起やひれがそれぞれに異なる。すべての種がタツノオトシゴ属(Hippocampus)に属する。属名のヒポカンパスは、「馬」と「海獣」を意味する古代ギリシャ語に由来している。(PHOTOGRAPH BY DAVID LIITTSCHWAGER)
撮影地:バーチ水族館(米国); アルガルベ大学ラマレーテ・マリン・ステーション(ポルトガル)

次ページ:雌が雄を「妊娠」させる

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
定期購読者(月ぎめ/年間のみ、ご利用いただけます。

定期購読者(月ぎめ/年間)であれば、

  • 1 最新号に加えて2013年3月号以降のバックナンバーをいつでも読める
  • 2ナショジオ日本版サイトの
    限定記事を、すべて読める

おすすめ関連書籍

2022年4月号

南米ギアナ高地 最後の秘境へ/海底の奴隷船を探して/ガーナ 海に生きる人々/不思議なタツノオトシゴ/美しい鳴き声ゆえに

35年にわたり新種を探してきた79歳の研究者が、南米ガイアナの密林で最後の調査に挑戦。彼が目指したのは人を寄せつけない断崖絶壁でした。特集「南米ギアナ高地 最後の秘境へ」で詳しくレポートします。このほか、「海底の奴隷船を探して」「不思議なタツノオトシゴ」など5本の特集をお届けします。

定価:1,210円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む