ロンドン警視庁には、人の顔を一度見たら忘れない「超認識力チーム」が存在し、犯罪者を追跡しているという。書籍『科学で解き明かす 禁断の世界』から抜粋して紹介する。

ロンドン警視庁の「超認識力チーム」は監視カメラの映像から、アリス・グロス殺害の容疑者としてアーニス・ザルカルンズを特定した。(Photograph courtesy of Metropolitan Police/PA Wire)
ロンドン警視庁の「超認識力チーム」は監視カメラの映像から、アリス・グロス殺害の容疑者としてアーニス・ザルカルンズを特定した。(Photograph courtesy of Metropolitan Police/PA Wire)
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 2014年8月28日、14歳の少女アリス・グロスは英ウエストロンドンの自宅を出たまま戻らなかった。少女を探すために、ロンドン同時爆破テロ以来の大規模な捜索が行われた。

 唯一の手がかりは粗い監視カメラの映像で、自宅を出た数時間後に運河に沿って歩いていく少女の姿が確認できた。彼女がカメラの前を通り過ぎてから15分後に、自転車で同じ方向に走り去る男も映っていた。

 ロンドンには推定50万台の監視カメラが設置されている。ほとんどは個人の所有物で、自宅や会社、公共の場の監視に使われている。警察にとってもかなり重要な捜査手段となっているが、映像は容疑者が誰なのかがわかって初めて役に立つ。(参考記事:「いつも誰かに見られている、超監視社会ロンドン」

 アリス・グロスの事件では、少女が最後に運河に姿を現した後で、いくつものカメラに立て続けに自転車の男が映っていた。警察が調べを進めていくと、男は雑木林の近くでしばらく姿を消し、再び現れると店でビールを買い、再び姿が見えなくなった。いかにも怪しい。この男は誰なのだろう。

超認識力チーム

 ここで警察には一つの武器があった。2015年、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)は超認識力の持ち主、スーパーレコグナイザーを集めたチームを正式に結成した。超認識力とは、人間の顔を一度見たら忘れず、その顔を見分けられる能力のことだ。2014年にグロスが行方不明になる前にも、警察はこのチームの力を借りていた。2011年に暴動で爆弾を投げて逮捕されたステファン・プリンスのように、過去に警察の世話になったことがある犯罪者をスーパーレコグナイザーたちのおかげで突き止められたという実績があったのだ。

 超認識力チームはアリス・グロスと同じ道を通った男の映像を調べ、この男が妻を殺した罪でラトビアの刑務所で7年間服役した41歳の建設作業員のアーニス・ザルカルンズであることを突き止めた。2009年には14歳の少女に性的暴行をした疑いで取り調べを受けていた。

 警察はザルカルンズの捜索を開始し、森の中で首をつった状態で死亡しているところを発見した。グロスの遺体は、数マイル離れた川の中で4日前に見つかっていた。さらに捜査を進めると、DNAをはじめとする証拠も見つかり、警察とスコットランドヤードはザルカルンズがグロスを殺して川の中に遺棄し、その後で自殺したと断定した。

 残念ながら少女の命を救うことはできなかったが、この殺人事件の解決に超認識力を持つスーパーレコグナイザーが重要な役割を果たしたことは間違いない。

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