シカからヒトに新型コロナが感染、初の報告、カナダのオジロジカ

デルタやオミクロンより古い系統、シカで変異が蓄積しヒトに直接感染か

2022.03.09
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オジロジカは新型コロナウイルスの保有宿主になっている。研究者たちは、カナダのオジロジカからヒトへの感染が起こった可能性があると考えている。(PHOTOGRAPH BY JIM BRANDENBURG, MINDEN PICTURES)
オジロジカは新型コロナウイルスの保有宿主になっている。研究者たちは、カナダのオジロジカからヒトへの感染が起こった可能性があると考えている。(PHOTOGRAPH BY JIM BRANDENBURG, MINDEN PICTURES)
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 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がカナダのオジロジカ(Odocoileus virginianus)からヒトに感染した可能性が高いことが、新たな研究によって明らかになった。北米に広く生息するオジロジカから新型コロナウイルスがスピルオーバー(異種間伝播)した例としては初の報告となる。

 新型コロナウイルスが米国のオジロジカの間で広がっていることは先行研究によってわかっていた。しかし、オジロジカが保有するウイルスは近くに居住している人がもっていたウイルスと非常によく似ていたため、単にヒトからシカに感染したと考えられていた。(参考記事:「野生のシカの4割に新型コロナの抗体、集団感染の可能性、米国」

 査読前の論文を投稿するサイト「bioRxiv」に2月25日付けで公開された論文の中で、カナダの政府および学術機関の研究者32人からなるチームは、2021年後半にカナダで17頭のオジロジカが「これまで新型コロナウイルスの系統で観察されたことのない変異」を数多くもつ株に感染したと結論付けた。

 さらに、オンタリオ州でオジロジカと密接に接触していた人が、同じ変異株に感染していたことも判明した。

 これらのことから、ウイルスはシカの間で広まりながら変異を蓄積し、最終的にヒトに感染したことが示唆されている。いったんミンクなどの他の動物を介して感染した可能性もあるが、ゲノム解析の結果を考慮すると、シカからヒトへの直接感染が「最も可能性の高いシナリオ」だと著者らは書いている。

 今回の研究は予備的なものであり、まだ査読も受けていないが、専門家によれば不安になる内容ではないという。

 新型コロナがシカから感染する可能性はヒト同士で感染する可能性よりもはるかに低いと、米カンザス州立大学新興・人獣共通感染症センターの所長で獣医師のユルゲン・リヒト氏は言う。なお、氏は今回の研究には参加していない。

全体像は複雑かもしれない

 この研究では、2021年11月から12月にかけて、オンタリオ州南西部と東部で約300頭のオジロジカの死体から鼻腔ぬぐい液と組織のサンプルが採取された。いずれもハンターが殺したもので、「シカ慢性消耗病(CWD)」の年次サーベイランス(監視)プログラムの一環だった。2頭分のサンプルは使えなかったものの、298頭中17頭(6%)が「大きく異なる新しい系統」の新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。

 また、この変異株がデルタ株やオミクロン株よりも前から存在していたこともわかった。新型コロナウイルスがシカの間でかなり前から広がっていたことが示唆される。

 著者らが、シカで見つかった変異株が既存の新型コロナウイルスワクチンを回避する可能性があるかどうかを分析したところ、ワクチンの予防効果に大きな影響はないと結論付けている。

 これは良い知らせだと、リヒト氏は安堵する。氏は、オンタリオ州におけるヒトでの感染例が、シカからヒトへの感染によるものである可能性が高いことに同意している。

 一方でリヒト氏は、ヒトや動物においてまだ発見されていない変異株が存在する可能性が高く、全体像は我々が思っている以上に複雑かもしれないと指摘する。「科学者としては、100%確実でない場合は必ず、他に何が起こっている可能性があるのかを議論しなければなりません」

次ページ:動物の間で広がり、変異する新型コロナ

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