複数のジンベエザメが、マグロやメジロザメ、ミズナギドリなど、他の捕食者とともにまるい魚群の「ベイト・ボール」を採餌している様子。2020年3月、西オーストラリアのニンガルーリーフで撮影された。

 ジンベエザメの食事といえば、ゆっくり泳ぎながらオキアミなどのプランクトンをこし取る餌の食べ方がよく知られている。だが、マグロや他のサメ、海鳥などの他の捕食者と一緒になって狩りをする様子が、オーストラリア沿岸で最大規模のサンゴ礁、ニンガルーリーフの海で撮影された。

 写真家のトム・キャノン氏が2020年3月に撮影した映像では、少なくとも3匹のジンベエザメが餌となる魚が身を守るために形成した群れ「ベイト・ボール」に突進していく様子が捉えられている。こうした行動がカメラに映ることはめったにない。

 この事例について、2月1日付けで学術誌「Pacific conservation biology」に論文を発表した筆頭著者のエミリー・レスター氏は、「映像を何百回も見ましたが、いまだに驚きです」と語る。ジンベエザメ(Rhincodon typus)は、これまで考えられていたよりも複雑な狩りをするのだ。(参考記事:「ジンベエザメ、大量に藻や植物食べ、4カ月絶食も」

 世界最大の魚であるジンベエザメが、プラクトンだけでなく、イワシなどの小魚や時にはイカも食べることは以前から知られていた。しかし、ジンベエザメがいつ、どこで、なぜ、より大きな餌を選ぶのか、その詳細を明らかにすることは困難だった。

「ジンベエザメは巨大でありながら、非常によく動きまわるので、調査が難しいのです」とオーストラリア海洋科学研究所の博士研究員のレスター氏は話す。彼らは大海を横断するだけでなく、水深1000メートル以上まで潜ることもできる。

 毎年3月から8月にかけて、ジンベエザメは西オーストラリア州にあるニンガルー沖に集合する。科学者や海洋愛好家にとって、浅瀬の近海でこの捉えどころのない生物を観察するまたとない機会だ。それでも、今回のような採餌場面に遭遇することは、巨大な干し草の山から針を見つけるようなものだ、とレスター氏は言う。

隣人たちに力仕事を任せている?

 ジンベエザメのベイト・ボール狩りは、実際にはカメラに映るよりも頻繁に起こっていると考えられている。世界中の熱帯海域から、似たような目撃情報は寄せられていて、例えば、西オーストラリア州での目撃情報は20年以上前にさかのぼる。

 しかし、今回のように水中で撮影された証拠は稀だ。ジンベエザメをベイト・ボールに向かわせるものは何なのか。どのような戦略で狩りが行われているのか。新しく得られる映像の一つひとつが、手がかりをもたらしてくれる。

 成長すると体長10メートル以上、体重は20トン前後にもなるジンベエザメは、餌を採るにあたってもエネルギーを節約する必要がある。ニンガルーで撮影された映像では、ベイト・ボールの下で立ち泳ぎする様子や、ベイト・ボールの中心を高速で駆け抜け、魚を口に収めようとする「ラム・フィーディング」の様子が確認されている。いずれも、口を開けながらゆっくり泳ぐよりも労力を必要とするため、一口で高カロリーを摂取できなければ非効率だ。(参考記事:「動物大図鑑 ジンベエザメ」

次ページ:大きな体、大きな口、そして小さな喉

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