マスクは子どもに害? 米国で根強い「有害論」の現在地

呼吸の妨げ? 言葉の発達を阻害? 心の健康を損なう? 科学者に聞いた

2022.02.23
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マスクは心の健康を損なう?

 学校でのマスク着用の義務化は子どもの心の健康にとって有害だという意見もあるが、専門家によれば、証拠はその逆を示唆しているという。ギルバート氏は、コロナ禍が子どもたちの心の健康に及ぼした悪影響について、最も顕著な兆候はパンデミックの初期に現れたと話す。当時、リモート授業を受けていた子どもたちは、登校できず、仲間と一緒に過ごせないことで、不安や抑うつのレベルが高まったのだ。

 エール大学のギリアム氏とマレイ氏がパンデミックの初期に懸念していたのは、学校や保育施設が休校・休園することによる、子どもと親の精神衛生への悪影響だった。そこで両氏は、こうした施設を閉鎖させない最も効果的な戦略を探ることにした。

 2020年5月、彼らは全米50州の6654人の保育士を対象に、ソーシャルディスタンスの保持、症状のチェック、マスクの着用など、施設でどのような感染対策をとっているかを調査した。それから1年後、これらの施設が休園したかどうかを追跡調査した。

 その結果、2歳以上の子どもにマスクの着用を義務づけていた保育施設が閉鎖を避けられた割合は、義務化していなかった施設より13%高かった。論文は2022年1月27日付けで学術誌「JAMA Network Open」に掲載された。

 両氏はこの研究について、マスク着用と同時に旅行を自粛していたかどうかなど、他の要素をコントロールできていないという限界は認めている。それでも、学校や保育施設でのマスク着用の義務化は子どもたちの心の健康を害するのではなく、むしろ守ることができるという有力な証拠になっている。

 ギリアム氏は、子どもたちの抑うつや不安をマスクのせいにするのは、子どもたちを守りたいという自然な欲求からくるものだと理解を示す一方で、教室でのストレスの原因はマスクではないと考えている。「腕に痛みがあるとしたら、それは傷のせいであって、その上に貼った絆創膏(ばんそうこう)のせいではありません。マスクを着けさせるのは、新型コロナという子どもたちの心を確実に傷つけるものから彼らを守るためなのです」

マスク着用義務を解除するタイミングは?

 マスクの着用義務について、科学はどのような提言ができるだろうか? その前にまず、科学的知見には常に例外があることを、政策立案者が念頭に置くことが重要だと専門家らは警告する。

 例えば、マスクの着用が大半の子どもに害を与えないという証拠があっても、耳が聞こえず相手の唇を読む必要がある子どもや、表情を読み取るのが苦手な自閉症の子どもが関わる場面では、着用義務を免除する必要があるかもしれない。

 それを踏まえたうえで、マレイ氏は、リスクは複数の手段を重ねて減らすべきであり、学校がとりうるコロナ対策はさまざまだと指摘する。学校にウイルスが入り込むのを防ぐには、検査と症状チェックを徹底すればよい。だが生徒の間ですでに感染が広がっているなら、マスクの着用と換気が重要になる。したがって、学校がマスクの着用義務を解除するのであれば、換気や検査の強化を考える必要がある。

 地域の感染者が少ない時期には、マスク着用義務の解除は理にかなっているかもしれない。だがマレイ氏は、有害な変異株が出現したり、感染者の急増が見られたりした場合には、マスク着用義務を復活させる必要があると話す。

 学校でのマスク着用義務の解除の目安となる万能の指標はない。教室の広さや、窓を開けて換気ができるかなど、マスク以外の感染対策をどれだけとれるかは学校ごとに異なるからだ。マレイ氏は、科学的な証拠を考慮することや、新たな証拠が出てきたときに方針を変える柔軟性をもつことが大切だと指摘する。

「どこかの時点でマスク着用義務の解除を試す必要はあるでしょう。ただ、そのためにはしっかりと計画を練らなければなりません。子どもたちが保育を受けられなくなり、親があわてて代わりの安全な施設を探し回るような事態は、誰にとっても良いことではありませんから」

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文=AMY MCKEEVER/訳=三枝小夜子

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