マスクは子どもに害? 米国で根強い「有害論」の現在地

呼吸の妨げ? 言葉の発達を阻害? 心の健康を損なう? 科学者に聞いた

2022.02.23
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マスクは言葉の発達を阻害する?

 もう1つの懸念は、マスクの着用が子どもの言葉の発達を阻害するのではないかという点だ。米マイアミ大学の博士課程で心理学を専攻するサマンサ・ミツベン氏によると、話し手の口の動きが見えなくなったり声が不明瞭になったりする結果、子どもが新しい言葉を理解したり学んだりしにくくなるのではないかという懸念が、氏を含む研究者の間にあったという。

 マスクが音を不明瞭にすることは研究により裏付けられているが、その程度はマスクの種類によって異なる。2021年5月3日付けで学術誌「Developmental Science」に発表された研究では、相手が透明なマスク(フェイスシールド)よりも不透明なマスクをしている方が、子どもは言葉を認識しやすいことが示されたが、これは透明なマスクによる光の反射が子どもを混乱させるからではないかと考えられる。

 2020年10月27日付けで学術誌「The Journal of the Acoustical Society of America」に掲載された研究でも、最も音響性能が優れている(2ヘルツ〜16キロヘルツの減衰が小さい)のはサージカルマスクで、KN95マスク、N95マスク、一部の布マスクがそれに続き、透明マスクは最も悪かった。

 ただし専門家によると、マスクの着用で声が不明瞭になることが子どものコミュニケーション能力を著しく低下させることについては、明確な証拠はないという。おそらくマスクを着用する人は、普段よりゆっくり大きな声で話したり、身振り手振りを使ったりして、聞こえにくさを補おうとするからだろう。

 ミツベン氏は最近の研究で、未就学児の教室で録音した音声を分析した。研究では、パンデミック前の教室と、子どもと教師にマスクの着用が義務化された時期の教室で録音された音声を比較した。その結果、子どもたちが発した言葉の数や、用いた言葉の種類に差は見られなかった。それぞれのクラスでは、補聴器や人工内耳を使用する児童が半数を占めていたが、その子どもたちも同様だった。

「彼らが発した言葉の数は、同年齢の子どもたちと変わりありませんでした」とミツベン氏は言う。

マスクは社会性の発達を阻害する?

 子どもは生後間もない頃から周りの人の顔を見ている。そうすることで、まずはポジティブな感情とネガティブな感情を区別できるようになり、やがてそれに応じて自分の行動を調整する方法を学ぶ。

 マスクで顔の下半分を隠すことが、そうした能力に影響を及ぼすことは確かだ。2021年5月に心理学の専門誌「Frontiers in Psychology」に掲載された論文は、3歳から5歳までの子どもは、マスクをしていない人の写真に比べ、マスクをしている人の写真から感情を読み取るのは難しいことを明らかにしている。

 しかし、エール大学小児研究センターの児童精神医学・心理学教授であるウォルター・ギリアム氏は、この研究は静止画を使っている点で限界があると言う。「私たちは人を目玉だけで認識しているわけではありません」。子どもたちは、相手の歩き方や、声の調子、手ぶりなども感情を読み取るための手がかりとしているが、「この研究では、そうしたものがすべて取り除かれています」

 ギリアム氏は、2020年12月23日付けで学術誌「PLOS ONE」に掲載された別の研究を挙げ、子どもにとってマスクをしている人の感情を読み取る難しさは、サングラスをしている人の感情を読み取るのと同程度だということが示されていると説明する。

 なお、これらの研究は特定の成長段階でのものであり、子どもは機会さえ与えられれば時間の経過とともに課題に適応できるようになることを忘れてはならない。「子どもたちはすぐにマスクをした人の感情も読み取れるようになるでしょう」とギリアム氏は言う。「子どもの能力をもっと信じてあげましょう」

 ギルバート氏も、マスクの着用が子どもや青少年の社会的成長を妨げる兆候はないとした上で、マスクは彼らが学校に行くことを可能にし、その成長を支えていると主張する。2021年12月20日付けで学術誌「Frontiers in Public Health」に掲載された論文をはじめ、この2年間で、マスクの着用の義務化がクラスターの発生数を減らし、休校を防ぐのに役立っていることを示す証拠が集まっている。

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