2021年の冬、1100頭を超えるフロリダマナティーが命を落とした。原因は寒さと餌不足だ。フロリダ州の野生生物当局によれば、2022年も1月だけで97頭の死が確認された。フロリダ州に生息するマナティーの数は推定5700〜7500頭だ。
死亡事例の多くは、フロリダ州東海岸の真ん中にある全長約250キロのインディアンリバー・ラグーンで発生している。ここでは、農業肥料や住宅開発による汚染が数十年前から続き、マナティーの主な餌である海草が広範囲にわたって枯れている。(参考記事:「430頭以上のマナティーが死亡、前年の3倍ペース」)
フロリダ州魚類野生生物保護委員会(FWC)の獣医師マルティーヌ・デ・ウィット氏によれば、フロリダ州が寒波に見舞われた1月中旬から月末にかけて見つかった死体の数は3倍に増えたという。
水温が比較的高いこの水域でマナティーを観察している生物学者たちは「痩せたマナティーや衰弱したマナティーを見ています」とFWCのマナティーレスキューコーディネーターを務めるアンディー・ギャレット氏は話す。
保護団体「セーブ・ザ・マナティー・クラブ」の事務局長パトリック・ローズ氏は昨年11月、この冬は壊滅的な被害が出る可能性があると警告した。「マナティーは生死にかかわる恐ろしい選択を迫られるでしょう。寒いところに出掛けて早く死ぬか、暖かい場所にとどまって飢えるかのどちらかです」
デ・ウィット氏によれば、マナティーはかつて、冬の寒波を難なく乗り切っていたという。しかし現在、穏やかな草食哺乳類であるマナティーの多くは、何年も続く餌不足で弱り、限界に達しているという。
「マナティーは危険にさらされています」とデ・ウィット氏は話す。
寒さが苦手、だが暖かい水域に餌がない
フロリダマナティーは亜熱帯の種で、水温が20℃以下になると弱る。アザラシなどの鰭脚(ききゃく)類やクジラといったほかの海洋哺乳類と異なり、マナティーは保温に役立つ分厚い皮下脂肪を持たない。マナティーが丸々としているのは脂肪のせいではなく、食べた植物を消化吸収する大きな消化管を持つからだ。(参考記事:「動物大図鑑:マナティー」)
寒い季節を乗り切るため、マナティーは自然の温泉や発電所の冷却システムの排水口など、水温が高い場所に避難する。1月末、ブレバード郡にあるフロリダ・パワー&ライト社のケープ・カナベラル・クリーン・エネルギー・センターの排水口には、800頭近くのマナティーが身を寄せ合っていた。このような避難所にはかつて餌がたくさんあったが、今では海草が消えてしまい、マナティーが食べるものはほとんどない。
ケープ・カナベラルの避難所では現在、前例のない緊急の給餌が行われている。野生のマナティーに餌を与えることは州と国の法律で禁止されているが、この冬、あまりに多くのマナティーが餓死の危険にさらされているため、当局は介入を選択した。2021年12月7日以降、飢えたマナティーのため、FWCのスタッフがロメインレタスやキャベツを海に投げ込んでいる。マナティーが人間と餌を関連づけないよう、防水シートに隠れて給餌している。
おすすめ関連書籍
絶滅から動物を守る撮影プロジェクト
今まさに、地球から消えた動物がいるかもしれない。「フォト・アーク」シリーズ第3弾写真集。 〔日本版25周年記念出版〕 〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:3,960円(税込)