化石を食べる生物が深海で見つかる、北極海の海綿、前代未聞

栄養の乏しい深海底に密集、化石化したチューブワーム食べ繁栄

2022.02.11
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
すでに死んでいるか死にかけているカイメンが白い細菌に覆われ、そこにヒトデが群がっている。北極海の海山で多数のカイメンが発見され、科学者たちを驚かせた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF ALFRED WEGENER INSTITUTE / PS101 OFOBS TEAM)
すでに死んでいるか死にかけているカイメンが白い細菌に覆われ、そこにヒトデが群がっている。北極海の海山で多数のカイメンが発見され、科学者たちを驚かせた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF ALFRED WEGENER INSTITUTE / PS101 OFOBS TEAM)
[画像のクリックで拡大表示]

 氷に覆われた北極海の真ん中の海底で、食べ物を見つけるのは難しい。場所によっては水深4000メートルを超える海底のサンプルを採取すると、肉眼で確認できる生物がほとんど、あるいは全くいない泥ばかりだ。

 ところが、2011年、そんなサンプルに珍しいものが含まれていた。最初にそれを見た学生は「シロクマ!」と声を上げた。

 白い毛皮に見えたものの正体はカイメン(海綿)の一部で、衝撃的だったとドイツ、アルフレッド・ウェゲナー研究所の海洋生物学者アンティエ・ボエティウス氏は振り返る。「このエリアにいるカイメンの数は、おそらく1平方キロ当たり1体ほどです。そのカイメンに命中し、なんという偶然だろうと私たちは思いました」

 しかし、2016年、ライトとカメラを持って同じ場所を再訪したボエティウス氏らは、活動を止めて久しい海底火山の頂上を覆い尽くすカイメンを発見した。なかには直径1メートルに達するカイメンもいた。

 ボエティウス氏らは不思議でたまらなかった。このカイメンたちはいったい何を食べているのだろう? 食べ物がないように見える場所で、「どうすればあれほどの密度まで増えることができるのか全くわかりませんでした」

 その後、分析を重ねた結果、驚くべきことが明らかになった。2月8日付けで学術誌「Nature Communications」に発表された論文によれば、カイメンたちはかつて繁栄したチューブワームの化石を食べていた。

 海底火山がまだ活動していたころ、湧き出るメタンを目当てにチューブワームがコロニーを形成した。およそ食べ物には見えないそのチューブワームの化石を栄養に変えてくれるのは、カイメンの体内にいる共生細菌だ。

海山の表面を覆い尽くすカイメン。共生細菌の助けを借り、化石化したチューブワームを食べている。(PHOTOGRAPH COURTESY OF ALFRED WEGENER INSTITUTE / PS101 OFOBS TEAM)
海山の表面を覆い尽くすカイメン。共生細菌の助けを借り、化石化したチューブワームを食べている。(PHOTOGRAPH COURTESY OF ALFRED WEGENER INSTITUTE / PS101 OFOBS TEAM)
[画像のクリックで拡大表示]

 論文の筆頭著者で、ドイツ、ブレーメンのマックス・プランク海洋微生物学研究所に所属するカイメンの専門家テレサ・モルガンティ氏によれば、カイメンがここで生き延びられるのはこの共生関係のおかげだという。

 化石を食べる動物が発見されたのは今回が初めてだ。「ほかの生物には利用できない食物源をカイメンが利用しているという発見は最高にクールです」とオランダ、アムステルダム大学の海洋生態学者ジャスパー・デ・ゴージ氏は話す。「また、細菌との共生が食物の獲得に大きな柔軟性を与えるという過去の研究結果も裏付けています」。なお、デ・ゴージ氏は今回の研究には参加していない。

化石を食べて生き延びる

 ボエティウス氏によれば、噴火活動のある海底火山では、死んだチューブワームが残したチューブ(筒殻)の上で次の世代が暮らし、「毛むくじゃらの丘」が形成されるという。噴火活動が弱まり、メタンの供給が停止すると、チューブワームは死に絶える。しかし、キチン質とタンパク質からなるチューブは残り、やがて化石になる。(参考記事:「【動画】水深3800mの深海に奇妙な生物群集」

 火山が活動を停止した後も、それまでの火山活動が一帯の生態系に影響を与え続けうることは過去の研究で明らかにされている、とノルウェー北極大学の海洋生態学者エメリー・オストロム氏は話す。それでも、「これほど極北に、これほど密集したカイメンの園があることに驚いています。私たちは深海のすべてを知っているわけではないという証拠です」。オストロム氏も今回の研究に参加していない。

次ページ:カイメンはどこから来て、どこへ行くのか?

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

2019年9月号

氷なき北極/北の果ての覇権争い/凍土に眠る炭素の脅威/消えた探検隊の謎/温暖化に注ぐ熱視線/オオカミと過ごした時間/氷が消える前に

2036年、北極海は初めて氷のない夏を迎える。氷の下に眠る資源や新航路をめぐって新たな対立が起きるのか? 永久凍土が解けるとどんな影響が起きるのか? 6本の特集とグラフィックで、北極の今を多角的にレポートします。

定価:1,131円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加