残り11人の英国工芸製作者、絶やさぬ決意

絶滅寸前の「ロブスターカゴ」、環境保全と観光で生き残りを図る

2022.02.13
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わずか10人余りしかいないウィジーポットの製作者の1人、ナイジェル・レッゲ氏。英国伝統工芸協会は、この英国の伝統的な工芸品を「絶滅寸前」に指定している。(PHOTOGRAPH BY RICHARD COLLETT)
わずか10人余りしかいないウィジーポットの製作者の1人、ナイジェル・レッゲ氏。英国伝統工芸協会は、この英国の伝統的な工芸品を「絶滅寸前」に指定している。(PHOTOGRAPH BY RICHARD COLLETT)

 美しい海岸がどこまでも続く英国南西部のデボン州とコーンウォール州。夏には多くの観光客が訪れる、この人気リゾート地は、かつてはロブスター漁などの漁業が盛んな地域だった。当時の漁師たちは、夏は漁業で海に出て、冬の木枯らしが吹き始めると、漁船を港に係留し、次のシーズンに使う「ウィジーポット(withy pots)」を編む屋内作業にいそしんだものだ。

 ウィジーポットとは、ロブスターを捕獲するためのワナを仕掛けたカゴのこと(potには、カゴだけでなく、ワナの意味もある)。インクつぼのような形をした手編みのウィジーポットは、ヤナギの枝を集めて作られている。その製作技術は船長から船員たちに伝えられてきたものであり、この地域特有の海洋文化とアイデンティティーの象徴といえる工芸品だ。ところが、20世紀になると、プラスチックや金属ワイヤーを使用した近代的な漁具が普及し、ウィジーポットは使われなくなった。現在、英国伝統工芸協会は、このウィジーポットを「絶滅寸前」に指定している。協会の調べによると、この地域でウィジーポットを製作できる技術を持つのは11人だけだ。

英国コーンウォール州のリザード半島で、ナイジェル・レッゲ氏の作業場の外に並ぶ真新しいウィジーポット。レッゲさんは数十年間、製作してきた。冬場には、1日に3、4個のかごを作る。(PHOTOGRAPH BY RICHARD COLLETT)
英国コーンウォール州のリザード半島で、ナイジェル・レッゲ氏の作業場の外に並ぶ真新しいウィジーポット。レッゲさんは数十年間、製作してきた。冬場には、1日に3、4個のかごを作る。(PHOTOGRAPH BY RICHARD COLLETT)

 この11人は、沿岸地域の伝統を復活させようと努力している。この伝統が復活すれば、英国のプラスチック汚染問題を多少なりとも緩和できる可能性がある。英国の海洋保護協会が2021年に行った試算によれば、英国の海岸では1マイル(約1.6km)あたり約5000個のプラスチックが打ち上げられているという。この数値はこの数年間で減少しているものの、同協会は、「使い捨てプラスチック製品の製造と販売を削減する総合的な取り組みをもっと進める必要がある」と述べている。(参考記事:「年間のプラスチックごみ流出、2040年に倍増」

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 英国最大の漁獲高を誇るデボン州のブリクサム港では、プラスチックを使用せず汚染を生まない漁具を求める声が高まっている。小規模経営の漁師たちからは、自然に生分解されるウィジーポットに切り替える動きも生まれている。一方、ウィジーポット製作技術を持つ1人、スー・モーガン氏は、デボン州ホープ・コーブの海沿いに作業場を設け、地元の人々や観光客にウィジーポットの製作を教えている。「この技術は伝統文化として継承すべきだと考えています」とモーガン氏は話す。「漁業の伝統や古くからの漁業の知識が徐々に失われているのは、残念なことです」

 ウィジーポットが初めて作られた時期はわかっていない。

 コーンウォール州の英国海洋博物館の歴史学者、トニー・ポーリン氏によれば、デボン州とコーンウォール州の漁業が商業化されたのは、エリザベス朝(1558~1603年)のことだ。これは、ホープ・コーブのロブスター漁について最初に記録された時期と重なっている。だが、ポーリン氏は、ウィジーポットはもっと古くから使われており、「伝統工芸」と考えるに値する歴史があると考えている。

次ページ:「ほぼ一夜で生じた」漁業の変化

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