謎の「串刺し人骨」、500年前のペルーで量産された理由

約200組が出土、「彼らは死者を復元しようと試みています」と研究者

2022.02.05
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ペルーのチンチャ渓谷で発見された串刺しの脊椎。作られた目的を解明するため、200組近くもある遺物が初めて体系的に分析された。(PHOTOGRAPH BY C. O'SHEA)
ペルーのチンチャ渓谷で発見された串刺しの脊椎。作られた目的を解明するため、200組近くもある遺物が初めて体系的に分析された。(PHOTOGRAPH BY C. O'SHEA)
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 ペルーの渓谷で見つかった、およそ200組もの「串刺しの人骨」。謎めいたこの遺物を初めて体系的に分析したところ、約500年前の先住民たちが、スペイン統治下で荒らされた墓地を再建するために作ったものであるらしいことが判明した。研究成果は、2月2日付けで学術誌「Antiquity」に発表された。

 串刺しの人骨が発見されたのは、ペルーの首都リマから南に約200キロの海岸地域に位置するチンチャ渓谷。ここは西暦900年頃からインカ帝国の一部となる1480年頃まで、チンチャ王国の中心地だった。串刺しになっているのは人間の脊椎(背骨)で、「チュルパ」と呼ばれる古代の墓から出土した。

 串刺しの脊椎は地元の農民たちの間では古くから知られていたと、論文の筆頭著者である英イーストアングリア大学の考古学者ジェイコブ・ボンガーズ氏は説明する。しかし、科学的に注目されるようになったのは、約10年前に氏が米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の博士課程でこの地域を研究していたときが初めてだ。

スペイン占領下のペルーでは、先住民の墓地が略奪され、「価値がない」とされた骨はまき散らされた。祖先の遺骨を「復元」することで、人々は死者の身体的完全性を守ろうとしたと研究者は考えている。(PHOTOGRAPH BY BY J.L. BONGERS)
スペイン占領下のペルーでは、先住民の墓地が略奪され、「価値がない」とされた骨はまき散らされた。祖先の遺骨を「復元」することで、人々は死者の身体的完全性を守ろうとしたと研究者は考えている。(PHOTOGRAPH BY BY J.L. BONGERS)
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 ボンガーズ氏は、米国とコロンビアの研究者とともに192組の串刺しの脊椎を分析した。各組は通常、4〜10個の脊椎骨が真っすぐな棒に通されていた。ただし、16個の骨が通されているものが1組あったほか、脊椎の上に頭蓋骨を載せた例外的な1組もあった。

 大人と子どもの計2人の脊椎が同じ棒に通されているものも1組見つかったが、おそらく偶然の産物だ。ボンガーズ氏は、大半は各個人の脊椎を復元しようとしたものだと考えている。

 研究チームは、骨の成長や下部脊椎の融合を調べることで、死亡時の年齢を推定した。その結果、大半は大人だったが、約6分の1は20歳未満の未成年だった。

 放射性炭素を用いた年代測定の結果、脊椎の持ち主たちは、この地にスペイン人が到来した1530年代半ば前後に埋葬され、その約40年後に脊椎だけ棒に通されたことが判明した。これは、埋葬後かなりの年月が経過し、おそらく遺体が白骨化してから脊椎が棒に通されたことを示唆している。

「死者との長期的な関わりを物語っています」とボンガーズ氏は話す。「彼らは死者を復元しようと試みています。死者の断片を拾い集め、元通りに戻そうとしたのです」

 一部の遺物は地表や浅い地中で発見された。おそらく墓標として置かれたのだろう。しかし、多くはチュルパに再埋葬されており、布に包まれているものもあった。これはアンデス地方で広く見られる埋葬習慣だ。

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