危険な薬剤耐性菌、次のパンデミックの恐れも、コロナで拡大懸念

抗菌剤の過剰使用や誤用で進化が加速、新薬の登場は期待薄

2022.02.01
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それぞれ異なる病原体によって形成された8つの細菌コロニー。いずれも抗菌薬への耐性を獲得し、院内感染を引き起こした。(COMPOSITE BY SCOTT CHIMILESKI, MICROBEPHOTOGRAPHY.COM, AND ROBERTO KOLTER, HARVARD MEDICAL SCHOOL)
それぞれ異なる病原体によって形成された8つの細菌コロニー。いずれも抗菌薬への耐性を獲得し、院内感染を引き起こした。(COMPOSITE BY SCOTT CHIMILESKI, MICROBEPHOTOGRAPHY.COM, AND ROBERTO KOLTER, HARVARD MEDICAL SCHOOL)
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 新型コロナ禍での抗菌薬(抗生物質)の誤用や過剰使用が、別の危機を悪化させるのではないかと公衆衛生の専門家が懸念している。薬剤耐性菌だ。細菌や真菌などの病原体が進化して、薬剤への耐性を獲得してしまうものだ。

 世界では毎年75万人以上が薬剤耐性菌感染症で死亡しており、2050年までには年間1000万人に達し、がんを上回るという報告もある。米国だけでも、年間280万人以上が薬剤耐性菌に感染し、3万5000人以上が死亡している。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下で抗菌薬が過剰に使用されてきたことが、耐性菌の問題をさらに悪化させている可能性がある。パンデミック以後、初めて開催されたG7コーンウォール・サミットでも、新型コロナに加えて将来のパンデミックへの備えとして薬剤耐性菌が課題に挙げられていた。

 新型コロナの感染が広がり始めた当初、咳、発熱、息切れを訴える患者の胸部X線写真に白い斑点が見つかると、細菌性肺炎に似た特徴であるため、抗菌薬が処方される場合が多かった。例えば米国では、2020年2〜7月に入院した約5000人の患者の半数以上が、入院後48時間以内に少なくとも1種類の抗菌薬を処方された。

「不確実性がある場合、必ずしも正しいとは言えなくても、(抗菌薬を)処方しないよりはすることを選びがちです」と、米メリーランド大学医療センターの感染症専門医ジャクリーン・ボーク氏は話す。

 抗菌薬は細菌を殺すだけであり、ウイルスには効果がない。しかし、肺炎の原因は真菌、細菌、ウイルスと多様で、どの病原体が原因かを突き止めるには少なくとも48時間かかる。時には感染の原因を確認するために、体に傷や負担を与える処置が必要になることもある。

 また、検査をしても原因が特定できないこともある。「多くの医師が、抗菌薬を過剰に処方していたと思います。しかし、何が原因か分からないなかで、その時できる最善を尽くしたということです」とボーク氏は語る。

 また、インフルエンザをはじめとする他のウイルス性疾患に見られるように、新型コロナ感染症の場合も、罹患(りかん)中や回復後に真菌や細菌への感染が起こることを心配する医師もいた。「当初は肺炎の患者が非常に多かったので、ウイルス感染か細菌感染かの検査もできませんでした」とボーク氏は言う。

 新型コロナ患者における細菌や真菌との重複感染が20%未満であることを知った世界中の医師たちは、抗菌薬や抗真菌薬の使用を控えるようになった。ただし、重症で入院が長期化する患者の場合、気管チューブやカテーテルを介して細菌に感染し、敗血症を引き起こす可能性があるため、抗菌薬が必要だった。

 それでも、世界の多くの地域で、新型コロナ患者に対する抗菌薬の処方は続いた。医師にかかることのできない患者が自己判断で、あるいは予防目的で服用するケースもあった。細菌感染の有無を確認する検査に費用がかかることや、そもそも検査を受けられないこと、「念のために」という考え方、場合によっては最新科学の知見を知らないことが、抗菌薬の過剰使用や誤用につながった可能性がある。

次ページ:耐性菌はどのようにして発生するか

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