性感染症がコロナ禍でより広まった可能性、どういうこと?

警戒強める専門家ら、クラミジアや淋病、梅毒の米国の調査結果と現状から

2022.01.28
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淋病の原因となる淋菌を、走査電子顕微鏡で撮影し、着色した画像。(NATIONAL INSTITUTE OF ALLERGY AND INFECTIOUS DISEASES, NATIONAL INSTITUTES OF HEALTH)
淋病の原因となる淋菌を、走査電子顕微鏡で撮影し、着色した画像。(NATIONAL INSTITUTE OF ALLERGY AND INFECTIOUS DISEASES, NATIONAL INSTITUTES OF HEALTH)
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 新型コロナウイルス感染症が流行した2020年は、人と会う機会が減ったために、性感染症も減少したのではないかと思うかもしれない。しかし米国では、逆に性感染症が増えている可能性があると専門家たちが警戒を強めている。

 最も懸念されている点は、パンデミック(世界的大流行)の影響で、クラミジアや淋病、梅毒などの性感染症の検査が過去2年間、後回しにされてきたことだ。こうした感染症の抑制には、検査が重要な役割を担う。クラミジアや淋病は、感染してしばらくは何の症状もないためだ。(参考記事:「抗生物質が効かない「スーパー淋病」英国で感染例」

 米疾病対策センター(CDC)のデータによると、2015から2019年までの4年間で、この3つの性感染症の報告例は全て30%増加していたが、2019から2020年の1年間に、クラミジアの症例は14%減り、梅毒も、第1期、第2期ともに0.9%減少した。しかし、この数字に関して専門家は、検査数が減っただけであって、感染者数が実際に減ったわけではないとみている。

 その理由のひとつは、2020年の乳幼児の梅毒感染例が2019年を上回っていたというCDCのデータだ。また、2021年のデータはまだ収集段階にあるものの、初期の報告では淋病の症例が増加しており、既に心配な兆候がある。

 米ペンシルベニア州立大学公衆衛生学助教のケイシー・ピント氏が率いた研究によると、新型コロナの新規感染者数が全米で増加していたのと同じ時期に、性感染症の検査数は激減していた。例えば、ニューヨーク州では新型コロナ検査の陽性率が25%を超えた2020年4月までに、性感染症の検査数は75%以上減少した。この研究は、2021年5月19日付けで医学誌「American Journal of Preventive Medicine」に発表されている。

 米ワシントン大学の医学・疫学准教授で、ワシントン州シアトル市とキング郡によるエイズ・性感染症プログラムの副局長を務めるジュリー・ドンブロウスキー氏は、「新型コロナによって、性感染症の防止にここまで成功したとはとても考えられません」と話す。

 新型コロナ対応に追われ、多くのクリニックは症状のある患者を優先させた。「その判断をするのは、非常につらかったです」と、ドンブロウスキー氏は言う。性感染症にかかると、治療しなければ不妊症や失明などの深刻な結果を招いたり、死に至る場合もある。さらに、エイズウイルス(HIV)に感染するリスクも高まるとCDCは警告している。感染による膿や炎症を放置していれば、そこからHIVが侵入し、感染しやすくなってしまう。

 医療現場では性感染症が増加しているという医療従事者も多い。「いつもより陽性者が増えています」と、米アラバマ大学バーミンガム校の医学・公衆衛生学准教授で、同大学の性感染症診断研究所長であるバーバラ・バン・デル・ポル氏は言う。

 はっきりした感染者数がわからない状況は何より心配だ。知らず知らずのうちに、感染が広がっているおそれがある。女性の場合、淋病に感染しても症状が出ないことが多い。クラミジアは米国で最も報告例が多い細菌による性感染症だが、最大で男性の場合は50%、女性は80%までが無症状だ。どちらの感染症も、排尿時の痛みが一般的な症状で、適切な検査をしないと尿路感染症だと誤診されることがある。

性感染症の検査はなぜ減ったのか

 パンデミックが始まってから数カ月間は、性感染症の検査を実施する診療所の多くが、通常の診療を休止して新型コロナウイルスの検査や接触者追跡の対応に回っていた。全米50州の医療機関と連携する公衆衛生団体「全米性感染症科長連合会(NCSD)」は、2020年5月までに全米の性感染症関連プログラムの83%で通常の診療が延期され、診療所の66%で検査数が減り、2020年8月までに性感染症関連プログラムの20%が完全に中断されていたと報告している。

次ページ:今後は性感染症の増加が確実視

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