てんかん治療にブタの脳細胞を移殖、アシカで効果

抗てんかん薬の効かない人間の患者の治療にも期待

2022.01.13
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 手術前の週末、クロナットは11回の発作に見舞われていた。だが、あれから1年が過ぎた今、シックスフラッグスのスタッフたちは、まだ一度もクロナットの発作を見ていない。(参考記事:「【動画】犬がてんかん発作のにおい判別、初の証明」

 シメオネ氏によれば、スタッフたちは、発作の兆候を示す震え、方向感覚の喪失、無気力、ふらつきなどの症状がないか、クロナットを慎重に見守っているという。今のところ、クロナットにはこうした症状はまったく見られず、体調は良好のようだ。飼育係の呼びかけにもよく反応し、ミッシーというアシカとも仲良くなった。以前は何日も食べないで過ごすことがあったが、今ではきちんと食べて、体重も安定している。

 バラバン氏の話では、クロナットの回復は、ブタ細胞を移植したマウスの経過と似ている。マウスでは、移植された細胞が海馬全体に広がり、発作を引き起こす脳の回路を修復する。また、これらの細胞は、マウスの不安感や記憶障害も緩和する。バラバン氏は、クロナットの場合も細胞が同じような効果をもたらしたと考えている。

 今回の治療では、クロナットの脳にすでに生じた損傷を回復させることはできないが、今後の発作を抑えて、新たな損傷を予防することができる。クロナットは今後も精神面の問題に直面する可能性がある。だが、飼育スタッフたちはクロナットが飼育アシカの通常の寿命である30代まで生きられるのでは、と希望を抱くようになっている。

 バラバン氏とシメオネ氏は、アシカの健康状態を見守るため、今後もドウモイ酸の中毒にかかった飼育アシカの治療を続けたい考えだ。

 今回の治療法は、海洋哺乳類だけでなく、抗てんかん薬が効かない人間の患者の治療にも効果が期待される。

てんかん治療の現状

 てんかん患者の一部では、手術が行われる場合もある。脳に対してペースメーカーのような役割をする機器を体内に埋めこむ手術や、発作を起こす脳の部位を除去する手術だ。しかし、こうした手術は侵襲的であり、行動面や認知面に副作用が生じるリスクがある。

 ブタ細胞の移植でも、リスクはゼロではない。最も懸念されるのは、移植された細胞に免疫システムが拒絶反応を起こし、その結果、脳が腫れたり、さらに損傷を受けたりすることだ。

次ページ:ヒトへの応用は?

おすすめ関連書籍

脳の謎 誰も知らない隠された能力

謎の多い人間の脳について、最近の科学的進歩を解説した書。人間の脳に関する「100の謎」を、学習、知能、意識、情動、加齢の5つのテーマに分類して、豊富な写真・イラストとわかりやすい文章で説明しています。

定価:1,540円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加