新たな変異株の抑制、最も強力な武器はワクチンの世界的な普及

デルタ株もオミクロン株も接種率の低い地域から流行した

2022.01.05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
メキシコ政府はアストラゼネカ製新型コロナウイルス用ワクチンを15万回分、グアテマラに寄付した。写真は2021年7月24日、グアテマラシティの空軍基地に到着したワクチン。(PHOTOGRAPH BY JOHAN ORDONEZ, AFP VIA GETTY IMAGES)
メキシコ政府はアストラゼネカ製新型コロナウイルス用ワクチンを15万回分、グアテマラに寄付した。写真は2021年7月24日、グアテマラシティの空軍基地に到着したワクチン。(PHOTOGRAPH BY JOHAN ORDONEZ, AFP VIA GETTY IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

 南アフリカの医師アンジェリク・クツェー氏は困惑していた。氏がそれまで診てきた新型コロナ感染症の患者では、症状の大半は喉の痛みと熱だった。ところが11月18日、氏が診察した29歳の男性は、極度の疲労感と激しい頭痛を訴えた。これは新型コロナ感染症というよりも熱中症に近い症状だ。クツェー氏はその日のうちに、これと同じような患者を7、8人診ることになった。

「まるでわけがわかりませんでした」と、南アフリカ医師会の会長であるクツェー氏は言う。

 研究者らはそれから1週間のうちに、この患者が今では「オミクロン株」と呼ばれている新たな変異株に感染していることを突き止めた。オミクロン株は現在、南アフリカをはじめとする多くの国々で支配的になっている。

 オミクロン株の増加をきっかけに、世界中の人々がワクチン接種を受けられるようにするにはどうすればよいかについての議論が再燃した。世界保健機関(WHO)は、2022年半ばまでに全世界の人口の70%にワクチンを接種するという目標を掲げている。 しかし、米国のような富裕国では人口の60%以上がすでに接種を済ませている一方で、低所得国では遅れている。南アフリカでは規定の接種を終えているのは人口の27%にとどまり、ナイジェリア、パプアニューギニア、スーダンでは、その数は3%にも満たない。

 この問題の原因は、供給の不足だけではない。専門家によると、低所得国ではワクチンを迅速かつ広範囲に配布するための大規模なインフラ整備が課題になっている。富裕国に求められているのは、道義的な義務としてワクチンを広く公平に分配する以上のことだと、専門家らは主張する。なぜなら、ウイルスが世界のどこかで流行していれば、変異を起こして拡散する機会が増えるからだ。(参考記事:「新たな変異抑えるコロナワクチンの途上国への寄付、なぜ難しい?」

 ウイルスが変異を起こすのはごく当たり前のことだ。ウイルスは、細胞への感染とその内部での複製を唯一の目的としている。一人の人間の体内で、新型コロナウイルスは少なくとも数千回、自身のゲノムを複製している可能性がある。コロナウイルスは「校正酵素」と呼ばれるものを持っており、その働きによって自身の遺伝子コードに間違いが入り込まないようにしているが、エラーがそれをすり抜けることは避けられず、そうなったときに変異が起こる。

 こうした変異の大半はウイルスにとって意味がないか、害になる場合もあると、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのウイルス学者ウェンディ・バークレイ氏は指摘する。変異がウイルスにとって有利に働く確率は10万分の1程度ともいうが、しかし、ウイルスの複製回数が増えるほど、そのリスクは高くなる。

 新たな変異株を登場させない最善の方法は、ウイルスが拡散・複製する余地を与えないことだ。そのためにはソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用、検査の実施といった手段が有効となる。しかし、もっとも強力な武器は、広くワクチン接種を行うことだ。

「アフリカでワクチン接種が進まない限り、安眠できる日は決して来ません」とクツェー氏は言う。

ウイルスの複製を抑えるワクチン

 重症化を防いで命を救うほかにも、ワクチンにはウイルスの複製を抑えるという利点がある。ワクチンを接種した人のブレイクスルー感染は症状が軽くなる傾向にあり、これはワクチンを接種していない人が感染した場合に比べて、患者が大量のウイルスを排出する期間が短いことを意味する。その結果、ウイルスが体内で複製する時間は短くなり、ほかの人の体内で複製する機会も減少する。

 そこで鍵となってくるのがワクチンの公平性だ。新型コロナウイルスのように感染力の強いウイルスを、多くの人がワクチンを接種していない地域で野放しにしておくことは深刻な問題だと、米ハーバードグローバルヘルス研究所のイングリッド・カッツ氏は言う。「この問題に正面から取り組む唯一の方法は、使える武器は何でも使うことです。それにはワクチンの世界的な普及も含まれます」

次ページ:接種コストにも大きな開き

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界

世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ会長とオンラインメディア『マンスリー・バロメーター』の代表ティエリ・マルレが、コロナ後の世界を読み解く。

定価:2,200円(税込)

おすすめ関連書籍

2021年2月号

ウイルスの世界/新天地を目指す女性たち/コスタリカ 野生の楽園/モニュメントは何のため?

2月号の特集「私たちはウイルスの世界に生きている」では、時には人々の生命を奪うウイルスが、生物の進化で果たしてきた役割について取り上げます。「コスタリカ 野生の楽園」はコロナ禍で保護活動が危機に直面している現地の状況をレポート。このほか、「新天地を目指す女性たち」「モニュメントは何のため?」などの特集を掲載。

定価:1,210円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加