新たな変異株の抑制、最も強力な武器はワクチンの世界的な普及

デルタ株もオミクロン株も接種率の低い地域から流行した

2022.01.05
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 ある変異株がどこで発生したかを正確に特定することはほぼ不可能だが、インドでは、昨年初頭のデルタ株の発生から急増時にかけてワクチン接種率は低かった。デルタ株が初めて確認されたのは3月で、当時は14億人の人口のうち、ワクチンの接種完了率は1%に満たなかった。当然ながら、感染者数と入院数は激増し、その後まもなく恐ろしいほどの数の人命が失われた。

不公平はワクチン承認前から存在

 残念ながら、ワクチンの不公平は新型コロナワクチンが承認される前から生じていた。富裕国は何千億回分ものワクチンを予約できるよう製薬会社と前もって取引をしていたため、低所得国はワクチンを手にすることもできなかった。

「そもそもの初めから、不公平なシステムが作られていたのです」とカッツ氏は言う。

 WHOは国際的な非営利団体と協力し、低所得国向けのワクチンを確保する取り組みであるコバックス(COVAX)を通じて、こうした不公平の是正に取り組んでいる。それでも、ワクチンはいまだに、ブースター接種を進める富裕国に過度に供給され続けている。

 中には、ワクチンの公平性を高めるために寄付に力を入れている国もあるが、インド公衆衛生財団(PHFI)会長のK・スリナス・レディ氏は、そうした寄付は常に賢明に行われているわけではないと指摘する。昨年大きな話題になったいくつかのケースでは、一部の富裕国が使用期限ギリギリになってから備蓄分を寄付に回したせいで、大量のワクチンが無駄になった。たとえば4月には南スーダンで6万回分近くが、11月にはナイジェリアで100万回分のワクチンが破棄されている。

「あれは慈善行為とは呼べません。ただゴミを捨てているだけです」とレディ氏は言う。

 それでもコバックスのおかげで、新型コロナワクチンの公平性への取り組みは、過去のワクチン接種事例に比べて格段に改善されている。たとえば子宮頸がんなどの発症に関わるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチンは、2006年から使用されるようになったが、大半のアフリカ諸国でようやく入手できるようになったのはここ2、3年のことだ。

接種コストにも大きな開き

 十分な量のワクチンを確保できた国は、それをどう配布するかを考えなければならない。そして、低所得国の場合、たとえワクチンの購入価格で割引を受けられたとしても、ワクチンを国民に広く接種するコストは高所得国に比べて高くつく。

「これがアフリカ諸国にとって難題なのです」とクツェー氏は言う。「ワクチンをいくら寄付してもらおうともこれを解決することはできません」

 国連開発計画とWHO、英オックスフォード大学が共同で運営する「ワクチン公平性グローバルダッシュボード」によると、低所得国の場合、国民の70%にワクチンを接種するためには、医療費を平均で57%近く増やさなければならない。なぜなら、多くの低所得国では、何十億人もの人々に迅速にワクチンを投与するための、送配電能力や訓練を受けた医療従事者といったインフラが整っていないからだ。mRNAワクチンの配布は、冷蔵機能のあるトラックや超低温の保管庫を必要とするため、特に厄介だ。

 一方、高所得国が全国民にワクチン接種をする場合、医療費の増額は1%以下で済む。

 インドでは、デルタ株の登場を機にワクチン接種に力が入れられるようになった。同国はドローンを活用して遠隔地にワクチンを輸送したり、戸別訪問によるワクチン接種の取り組みを行ったりしている。インドの保健大臣によると、すでに対象となる国民の85%が1回目の接種を受け、半数以上が規定の接種を終えたという。それでも、多くの低所得国には、何千人もの医療従事者を動員して戸別訪問を行うだけのキャパシティがないのが現状だ。

 さらにもうひとつ、ワクチンを接種するよう人々を説得するという課題もある。ワクチン接種をためらう動きは世界各地に見られるが、その原因の多くは、新型コロナのインフォデミック、つまり反ワクチン運動によってまき散らされた誤った情報や偽の情報の広がりだと、専門家は指摘する。

次ページ:ワクチンへのためらいには仕方のない一面も

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