3600年前の超巨大「ミノア噴火」、津波の犠牲者をついに発見

エーゲ海のサントリーニ火山、史上最大級の火山被害と推定

2022.01.04
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 犠牲者がほとんど発見されていない理由については、諸説ある。この噴火の前に小規模の噴火が起こったため、住人たちはそこから既に避難していたという説や、超高温ガスで骨まで焼かれてしまった、ほとんどの犠牲者が海へさらわれた、また集団墓地に埋葬され、まだ発見されていないのだろうという意見もある。

「史上最大級の自然災害なのに、犠牲者が全くいないなどということがあるでしょうか」と、シャホグル氏は問う。グッドマン・チェルノフ氏は、過去の津波の堆積物に研究者たちが気付かなかったのと同様、既に犠牲者が発見されているものの、津波とは別の災害に関連付けられていて気付いていないだけかもしれないと考えている。

 今回チェシュメ・バウララス遺跡で発見された骨は、確かに津波の犠牲者のものであると、研究者たちは確信している。若い健康な男性の骨格には、鈍器による外傷の跡が見られ、津波の堆積物の中でうつぶせに倒れていた。

 また、そのすぐそばの倒壊した玄関跡からは、イヌの骨も見つかった。どちらの骨も、直接的な年代測定は数カ月先になるが、それらの周辺で発掘された遺物の放射性炭素年代は既に測定されており、男性とイヌもほぼ同年代であろうとみられている。

2015年、青銅器時代のチェシュメ・バウララス遺跡で灰の地層を調査するビバリー・グッドマン・チェルノフ氏。(PHOTOGRAPH BY VASIF ŞAHOĞLU, ANKARA UNIVERSITY)
2015年、青銅器時代のチェシュメ・バウララス遺跡で灰の地層を調査するビバリー・グッドマン・チェルノフ氏。(PHOTOGRAPH BY VASIF ŞAHOĞLU, ANKARA UNIVERSITY)
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数日から数週間で津波は4度訪れた

 研究者たちは、数日から数週間の間に4回の津波がチェシュメ・バウララスを襲ったと結論付けた。米ハワイ大学ウィンドワード校の地質学と海洋学教授で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるフロイド・マッコイ氏は、今回の研究には参加していないが、この点が特に興味深いとしている。ティラ島の噴火は4段階に分かれ、これまではそのうちのいずれかの段階で巨大津波が1回だけ起こったと考えられていた。

 ところが最新の論文は、2段階、3段階、あるいは4段階の噴火全てが津波を引き起こした可能性があることを示唆している。

 津波と津波の合間に、生存者たちは犠牲者や家財を探して、混乱した被災地の土を掘り返していたようだった。そのような形跡が、今回発見された男性の遺骨の真上にも残されていた。しかし、穴を掘っていた人物は男性の遺体へたどり着く数十センチ手前で掘るのをあきらめていたようだった。

 土を掘り返した跡があったということは、当時の人々が災害による犠牲者の遺体を回収して適切に埋葬しようとしていたことを示している。おそらく病気の蔓延を懸念して、集団埋葬を行ったのではないかと考えられる。「これほどの規模の災害に犠牲者の遺骨が発見されていないことの理由が、これで説明できます」と、ベルギー、ルーバン・カトリック大学の考古学者ヤン・ドリーセン氏は言う。

議論を呼ぶ津波の年代

 今回の研究では、9つの堆積物の放射性炭素年代が測定されたが、これが新たな議論を呼ぶ可能性がある。

 これまで、噴火が起こったのは考古学的な調査から紀元前1500年頃(古代エジプト第18王朝期)と考えられていた一方で、サントリーニ島の灰の層から見つかった木の放射性炭素年代は紀元前1600年代半ば~後半と測定されていた。この違いは、当時の地中海世界における異なる文化の年表を相互に関連付け、災害の前と後でどのような異文化交流があったのかを明らかにしようとする研究者にとっては厄介な問題だ。

 今回測定された遺物のうち最も年代が古かったのは、男性の遺骨のそばで見つかった大麦の粒で、紀元前1612年とされた。研究者たちは、噴火の時期がこれよりも早かったということはないだろうと言う。

 しかし、このやり方で噴火の時期を特定することに疑問を持つ外部の専門家もいる。また、新しいデータは歓迎するものの、チェシュメ・バウララスでこれまでに発見されたもので年代の問題は解決しないだろうというのが一般的な見方だ。

 噴火の時期や、それが青銅器時代の地中海世界にどのような被害をもたらしたかについて、疑問はまだ多く残されている。しかし今回の研究によって、この地域で活動するほかの考古学者たちも、自らの研究成果を見直し、何か関連する証拠を見逃していないかどうか確認する機会になればと、関係者は期待している。

ギャラリー:流れるマグマ、立ち昇る噴煙、荒ぶる地球の迫力を実感 世界の活火山 写真13点(写真クリックでギャラリーページへ)
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イタリアのエトナ山。ヨーロッパ最大の活火山で、溶岩をまき散らす姿やリング状の火山灰がしばしばニュースになっている。写真は2018年12月の大噴火。地球上で最も長く記録されている火山の一つでもあり、紀元前1500年の噴火が記録に残っている。(PHOTOGRAPH BY FABRIZIO VILLA, GETTY IMAGES)

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文=KRISTIN ROMEY/訳=ルーバー荒井ハンナ

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