海に岩をまいて温暖化抑止、進む「海洋アルカリ化」実験

理論的には人為的な排出量を上回るCO2吸収も可能との試算も

2022.01.06
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 33日間の実験で、研究者たちはメソコズムの海水サンプルを調べた。メソコズム内の海水のアルカリ度は、自然と同等のレベルからその2倍までさまざまに変えてある。水素イオン濃度(pH)からプランクトンの健康状態まで約45のパラメーターが、カナリア諸島海洋プラットフォーム(PLOCAN)とスペイン、ラス・パルマス大学テクノロジーパークの複数の研究室で分析された。

 現在調査しているのは、海水のアルカリ化の度合いによって、CO2の正味の吸収量がどのようになるかだ。「海のアルカリ化が進むと、石灰化が起きてCO2の吸収量が減るかもしれないのです」と、ドイツでデータを分析しているリーベセル氏は言う。「けれども高いアルカリ度が維持されれば、CO2は永久に海にとどまることになります。私たちはそれを期待しています」

 リーベセル氏のチームはさらなる手がかりを求めて、2022年にノルウェーの海で追跡調査を行う予定だ。水生植物がほとんど生育しないカナリア諸島の海とは違い、ノルウェーの海は穏やかで豊かだ。5月から始まる試験では、カナリア諸島での実験よりはるかに大きい容量5万リットルのメソコズムを使用するため、魚をはじめ、より複雑な生物が受ける影響についての知見が得られるはずだ。(参考記事:「海藻は「温暖化対策のカリスマ」、最新研究」

グラン・カナリア島の港町タリアルテに設置されたメソコズム。(PHOTOGRAPH BY PETER YEUNG)
グラン・カナリア島の港町タリアルテに設置されたメソコズム。(PHOTOGRAPH BY PETER YEUNG)
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実現には高いハードル

 こうした実験により、アルカリ化の効果が明らかになったとしても、すべての海域をアルカリ化することは至難の業だ。岩石を採掘し、粉砕し、輸送するには、石炭採掘に匹敵する規模の産業が必要となる。リーベセル氏によると、大気中から1トンのCO2を吸収するには、1〜5トンの岩石が必要だからだ。

 散布方法の問題もある。岩石は船から海に投入したり、海岸の砂に混ぜたり、農地にまいたりすることが考えられるが、それぞれに課題があり、コストがかかる。

「岩石は十分にあるので、実施は可能です。ただし、それは途方もない大仕事なのです」とリーベセル氏は言う。

 使用する岩石の種類も課題だ。グラン・カナリア島の実験で使われた石灰岩は、豊富に存在するものの水に溶けにくく、実用的には負担が大きい。セメント産業の副産物である生石灰は、豊富にあるだけでなく水にも溶けやすいが、石灰石を燃やして作るため、CO2の排出削減効果は低い。

 最も有望なのはカンラン石だ。カンラン石は緑色がかったケイ酸塩岩で、重量あたり生石灰の2倍、石灰岩の4倍のCO2を吸収することができる。ノルウェーでの研究では、このカンラン石が使われる予定だ。

 また、米国カリフォルニア州の公益法人プロジェクト・ベスタが独自に進めている研究プログラムでは、今後数年間でカリフォルニア州、ニューヨーク州、インド、カリブ海北部の沿岸海域でカンラン石を用いた4つの野外試験を行う予定だ。同社のトム・グリーン最高経営責任者(CEO)は、「カンラン石は世界中にあります。採掘に化学薬品は必要なく、採取するだけなので、世界中の石炭採掘インフラを利用することができます」と話す。

 プロジェクト・ベスタによると、カンラン石を使った海洋アルカリ化では、100トンのCO2を吸収するのに3トンのCO2しか排出されないという。また、機械を使って大気中のCO2を直接回収するのは大量のエネルギーを必要とするため、大規模に実行するならカンラン石を使うほうがはるかに現実的だとグリーン氏は言う。「私たちは海の力を活用したいのです」

次ページ:実用可能なのか? 迫るタイムリミット

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