ラオスには、半身が蛇で半身が人間の形をした水の精霊「ナーガ」が、美しい織り子を花嫁としてメコン川の底に引き寄せるという言い伝えがある。この神をかたどった像や壁画は東南アジアのあちこちで見られるが、特にラオスでは、織物において重要なモチーフとなっている。
ナーガはラオスの人々の日常生活や織物文化に不可欠な存在だ。2021年、ラオスは、織物におけるナーガのモチーフをユネスコ無形文化遺産登録に申請した。
過去には、シンガポールの屋台料理「ホーカー」、ポルトガルの民族音楽「ファド」、ウガンダの樹皮でできた生地なども、無形文化遺産に登録されている。(参考記事:「無形文化遺産になったシンガポールの伝統屋台「ホーカー」の歴史」)
無形文化遺産への登録が実現すれば、古くからの伝統が世界に認識されるだけでなく、観光客を呼び寄せる効果も期待できる。伝統的な機織り産業が衰退しつつある現在、無形文化遺産登録によって、ナーガをモチーフとするラオス伝統工芸の将来がもっと明るくなるかもしれない。 (参考記事:「ラオス料理は幸福のおすそ分け」)
ナーガのルーツ
ラオスは、タイ、カンボジア、ベトナム、中国、ミャンマーに囲まれた小さな内陸国だ。この国の人々は、2000年以上にわたって、蛇の精霊をさまざまな形で崇拝してきた。ナーガは、工芸品や建築物、祝祭行事に取り入れられ、ラオスの精霊信仰と仏教信仰の橋渡し役となってきた。(参考記事:「ラオスの巨大洞窟――大きく開いた入口」)
「紀元前2000年には、ラオスに移住したモン・クメール語族の人々が、ヘビ、竜、ワニの形をした水の精霊を崇拝していたことがわかっています」と、フランス、パリにある民俗学・比較社会学研究所のナーガ専門家、ステファン・レネソン氏は話す。
農業、漁業、狩猟採集で生活を営んでいた初期のコミュニティーは、水と深くかかわってきた。それは現代でも変わっていない。14世紀には仏教が普及し、ナーガは仏教の保護者とされた。実際にラオスの若者が出家して修行僧となる場合、ナーガに代わって誓いを立てることから、彼らはナク(ナーガはラオス語で「ナク」)と呼ばれている。
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