2019年、米国最後の奴隷船として知られる「クロティルダ」号の残骸が、モービル川の濁った水中でおよそ160年ぶりに確認された。以来、考古学者たちが調査研究を続けてきた結果、2021年11月8日、クロティルダ号が米国の国家歴史登録財に指定された。当初考えられていたよりはるかに多く船体が残っていると判明し、クロティルダ号は米国最後の奴隷船であるだけでなく、最も保存状態の良い奴隷船にもなった。(参考記事:「「米国最後の奴隷船」を発見、110人を密輸」)
調査を請け負うサーチ社の海洋考古学者で、クロティルダ号の研究を率いるジェームズ・デルガド氏は「考古学的な記録に残っている最も完全な奴隷船です」と話す。デルガド氏の推定では、貿易用スクーナー(高速帆船)を奴隷船に改造する際に追加した隔壁などを含め、木造構造物の最大3分の2が残っているという。
「船とその用途だけでなく、フォスターや乗組員が奴隷船に改造するために加えた変更についても、直接的な物的証拠が存在します」とデルガド氏は説明する。「人が収容されていたエリアの大きさまでわかります。これが判明したとき、チーム全員がハッとして感動に包まれました」(参考記事:「沈没船が明らかにする奴隷貿易の変遷」)
賭けに始まり、証拠隠滅に終わる
アラバマ州モービル近郊の歴史ある町アフリカタウンで育ったジョイスリン・デイビス氏は、コミュニティーの起源について聞かされてきた話をずっと信じてきた。奴隷の輸入が法律で禁じられて何十年もたってから、ある裕福な白人実業家が、アフリカからモービルに奴隷を密輸する賭けを行ったという話だ。
クロティルダ号の船長ウィリアム・フォスターは1860年、110人の奴隷を船に乗せてアフリカから帰国した。デイビス氏の祖先で、アフリカタウンの創設者の一人であるチャーリー・ルイスも含まれていた。
フォスターは犯罪の証拠をもみ消すため、クロティルダ号を燃やして沈めた。そして、モービル川のどこかに船の残骸があると言われていた。(参考記事:「米国最後の奴隷船、帰らざる旅の記憶」)
「船があるから現実味があるわけではありません」とデイビス氏は語る。「自分の祖先が記録に残されていて、本も何冊かある……私にとっては、それで十分でした。しかし、船はさらなる楽しみになりました」
そして今、新事実が明らかになり、ただでさえ特別なクロティルダ号がさらに希少な存在となった。
川の水が濁っていて、沈没船をはっきり見ることができないため、研究チームはソナーで全体像をつかもうとしている。
「ダイバーの視界が数センチしかない川に沈む船の話です」とデルガド氏は言う。「私たちにとって、ソナーは明かりのようなものです」