ロシア北極圏に「光る雪」 正体は海の微生物、なぜ?

発光するカイアシが、北極の調査所付近の雪を青く照らした

2021.12.24
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 最初に「光る雪」が目撃された2021年12月1日は、月は新月に近く、かつ2021年の近地点(月が地球に最も接近する時)の3日前であったため、潮の流れが特に強かったと考えられる。どちらの条件も、強い潮流を生む原因となる。しかし、12月16日の2度目の目撃例が示唆しているのは、1年に1度の月の周期が巡ってくる日でなくとも、光る雪の条件が揃うことはあるということだ。

陸に打ち上げられたプランクトンが、夜に雪の中を散歩していた科学者の足音に反応し、輝きを放ち始めた。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER SEMENOV / WHITE SEA BIOLOGICAL STATION (WSBS MSU))
陸に打ち上げられたプランクトンが、夜に雪の中を散歩していた科学者の足音に反応し、輝きを放ち始めた。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER SEMENOV / WHITE SEA BIOLOGICAL STATION (WSBS MSU))
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 大半の生物発光は、ルシフェリンと呼ばれる分子が酸化されるときに起こる。この分子がルシフェラーゼという酵素と結合すると、反応が加速して強い輝きを放つようになる。(参考記事:「【動画】青くきらめく生物「海のサファイア」」

「つまり、このカイアシの中にはこれら2種類の分子、発光する分子と加速させる分子があるわけです」とハドック氏は説明する。これらの分子が体内で反応するカイアシもいるが、Metridia longaの場合は頭と体に腺をもっており、体の外で発光させる。「彼らがこれら2つの分子を同時に放出すると、水中に小さな光の塊ができるのです」

 研究者たちはMetridia longaを含むカイアシ類は、生物発光を防衛手段として利用していると考えている。「捕食者が、光ったカイアシに驚いて吐き出すのかもしれません。あるいは、驚かせることで逃げる時間を作っているのかもしれません」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の進化生態学・海洋生物学教授のトッド・オークリー氏は言う。(参考記事:「コシオリエビ、カリブの光る深海生物」

 コソボコワ氏は、雪の中にいたカイアシ類は、弱ってはいても生きていたと考えている。北極圏のプランクトンは、凍るような寒さには慣れているはずだからだ。しかし、生物発光の専門家らによると、死んでいた可能性も否定できないという。青い光がぼんやりと弱く輝いていたのは、そのためだったのかもしれない。

 UCSBの大学院生エミリー・ラウ氏は、魚類と、カイアシ類と同じ甲殻類のカイムシ類における生物発光の生物化学を研究している。カイムシ類は、胡麻の粒に目玉が付いたような姿をしている。「カイムシを乾燥させて、死んだ後に水中で潰しても、まだ生物発光が起こります」とラウ氏は説明する。

「ルシフェリンという小さな分子がある限り、生物発光は起こるのです」

夜光虫の可能性も

 ノルウェー北極大学教授で極夜と北極海の生態系を研究しているヨルゲン・ベルゲ氏は、「光る雪」の正体をカイアシ類と断定するのはまだ早いと指摘する。ベルゲ氏は、ノルウェーのスバールバル諸島の海岸で、雪の中に似たような現象を目撃したことがあるが、その原因は渦鞭毛藻類の塊としたほうが説明できると考えているからだ。いわゆる夜光虫の仲間だ(ただし、ベルゲ氏は発光した場所を調べて組成を特定したわけではない)。

 海中で見られる見事な生物発光現象の原因は、渦鞭毛藻類であることが多い。「サンプルの中の大きな生物には、つい目を引かれてしまうものです」とベルゲ氏は説明する。目立つ生物が発光する能力をもつからといって、ほかの生物が原因でないとは限らない。ただしベルゲ氏も、今回の発光は、渦鞭毛藻類にしては明るいという点は認めている。

 それにしても、24歳のエメリアネンコ氏と、18歳のネレティン氏が「光る雪」を目撃するまで、80年以上の歴史がある生物調査所に「光る雪」について調べた記録が一つもないことにも驚く。「12月の北極圏で、夜、散歩に行くような人はめったにいないですからね」とコソボコワ氏。「クマやオオカミも出ますから」とセメノフ氏は付け加える。

 今回の発見は、若い生物学者たちの鋭い観察眼と寒さをものともしない忍耐力の賜物だろう。「子供のような好奇心を持てば、たくさんの謎が見つかるはずです」とハドック氏は言う。

 セメノフ氏も同意する。「想像すらできない思わぬ美しさがすぐ目の前にあるなんて、通常、人は考えませんから」

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文=ELIZABETH ANNE BROWN/訳=北村京子

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