この計算に必要なのは、銀河がどれくらいの速度で地球から遠ざかっているか、またその銀河までの距離はどれくらいかという二つのデータだ。そして、そのためには「宇宙の距離はしご」を構築する必要がある。
宇宙の距離はしごとは、地球からある天体までの距離を一つの手法で測定し、その結果を基にその先の別の天体を別の手法で測定する、というのを繰り返し、はしごを伸ばして遠くまで到達するように、遠くの天体までの距離を測ることからそう呼ばれている。
SHoESは、まずセファイド変光星と呼ばれる星までの距離を測定した。このタイプの星は、真の明るさが知られ、一定の周期でみかけの明るさが変化するという性質上、距離を測定しやすい。
次に、研究者たちはIa型超新星と呼ばれる超新星爆発をこのはしごに加えた。セファイド変光星とIa型超新星の両方が存在する銀河を観測することで、超新星の明るさとその距離との関係を計算することができる。Ia型超新星は、セファイド変光星よりもはるかに明るく、より遠方にあっても観測可能なため、宇宙の遥か彼方にある銀河まで計測のはしごを伸ばすことができる。
新たな分析結果
しかし、これらの星や超新星爆発を全て正確に計測することは恐ろしく難しい。厳密にいえば、全てのセファイド変光星やIa型超新星が、全く同じ組成や色をしているわけではないし、それが存在する銀河の種類も異なる。これらの違いを埋め合わせるために、天文学者たちは何年も研究を重ねてきたが、まだわかっていない何らかの要素がエラーを引き起こしている可能性は否めない。
そこで、デューク大学の天文学者ダン・スコルニック氏とハーバード・スミソニアン・センターの宇宙物理学者ディロン・ブロウト氏が共同で率いる研究チーム「Pantheon+」は、1981年から収集されてきたIa型超新星に関する1701の観測データを徹底的に分析した。また、既知の不確定要素やバイアスの元となるものもすべて数値化して含めた。
その結果をリース氏とSHoESによる最新の分析と組み合わせ、セファイド変光星の観測に影響を与えそうな要因の徹底的な照合を行った結果、ハッブル定数は73.04(±1.04)km/s/Mpcであると結論付けた。この数値は、宇宙マイクロ波背景放射から導いた値よりも約8%高い。
なぜこのような違いが生まれたのかを突き止めるため、チームはさらに外部の科学者によるアイデアを取り入れて、全体で67通りの分析を検証してみたが、そのほとんどで、ハッブル対立は悪くなるばかりだった。(参考記事:「研究室に行ってみた!宇宙論、小松英一郎氏」)
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