トラップは塩化ビニールパイプに湿らせた植物を詰めてナイロン製の紐を取り付けたもので、数カ月間地中に放置しておくことができる。その間にヤスデなどの動物が、おいしい腐った植物に引き寄せられて中に入る。
E・ペルセポネは、このようにして地中60メートルに仕掛けたトラップで発見された。米国バージニア州の研究室に戻ったマレク氏は、丸まっていた標本を伸ばして高解像度顕微鏡画像を撮影し、画像上で脚の数を数えた。数え間違いを防ぐため、10本ごとに印をつけていった。その結果、脚の数は1306本であることが確認された。
なぜ、こんなに多くの脚があるのだろうか?
「土壌には、岩や小石や土の塊などからなる固体部分と、空気や水などからなる間隙部分があります。土壌中のヤスデは、こうした固体部分を避け、間隙部分を移動していきます」とマレク氏は説明する。
「ヤスデの体は逆向きになることができます。一部は下を向いているのに、別の部位は上を向いていたりするのです。土壌の三次元構造の中を進むのに適したしくみです」
E・ペルセポネの祖先は地表や地表付近に広く生息していたようだが、気候の乾燥が進むと、どんどん地下に追いやられていったと彼は言う。
太陽から身を隠したE・ペルセポネは、洞窟に適応した種の多くがそうであるように体の色を失った代わりに、円錐形の頭部と、巨大な触角と、堆積物やその他の狭い空間を突き進むミミズのような強力な運動能力をもつようになった。
足元に広がる未知の世界
米ジョージア・カレッジ&ステート大学の土壌生態学者であるブルース・スナイダー氏は、「自分が発見したかどうかにかかわらず、新種が見つかると常にわくわくするものです」と言う。「ヤスデについては、続々と新種が見つかっています」
スナイダー氏は今回の研究には関与していないが、E・ペルセポネの脚の数が2番目に脚の多い I・プレニペスの2倍近いという事実には驚いたという。
スナイダー氏は、科学的にさらに興味深いのは、E・ペルセポネが I・プレニペスとはまったく別の分類群に属している点だと指摘する。このことは、地中生活への適応の結果、極端な多足歩行が独立に進化したことを示しているからである。
E・ペルセポネの生息地の深さにも驚かされる。
スナイダー氏は、「私はよく、ヤスデはどのくらいの深さまで行けるのかという質問を受けます」と言う。「E・ペルセポネの生息地の深さは、私がこれまで想像していたよりもはるかに深いです」
基本的に、地中の動物の世界はあまり研究されていないため、E・ペルセポネやその近縁種がどの程度広く分布しているかは不明である。
「今回の発見は、200年以上探査が行われているにもかかわらず、私たちの知らない生態系がまだ存在していることを示唆しています」とマレク氏は言う。(参考記事:「3億年前の大型ヤスデの化石、おそらく新種」)
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