米国東部メーン州の「メーン湾ではさまざまな変化が起きていますが、それを私たちに教えてくれるのはパフィンなのです」と話すのは、全米オーデュボン協会海鳥研究所の保全科学責任者で、同協会の「プロジェクト・パフィン」のリーダーを務めるドナルド・ライオンズ氏だ。
プロジェクト・パフィンの取り組みは数十年に及ぶ。パフィン(ニシツノメドリ)だけでなく、ウミガラス、アジサシ、ウミツバメなどの海鳥の群れを、メーン湾のイースタン・エッグロック島、マティニカス・ロック島、シール島に復活させることがねらいだ。
パフィンはハンターや卵収集者に狙われ、1800年代後半には島々から姿を消していた。復活の取り組みは1970年代前半、カナダのニューファンドランド州(当時)の島から数羽のヒナをイースタン・エッグロック島に移入することから始まった。現在では、この約3ヘクタールの島におよそ180組のペアが営巣するまでになった。
しかし、目覚ましい復活を遂げたパフィンたちに今、新たな脅威が迫っている。
例年ならパフィンのヒナの3分の2が巣立つが、2021年は、イースタン・エッグロック島や他の島々ではヒナの4分の1から3分の1しか巣立ちを迎えることができなかった。ライオンズ氏によれば、この夏のパフィンの繁殖成績は「驚くほど低調」だった。2019年は「非常に好調」だったが、「2020年はぎりぎりの成績で、今年は悲惨でした」
気候変動がもたらした海水温上昇の影響や、パフィンが好む魚の乱獲による餌の不足がその原因だと、ライオンズ氏は考えている。
魚が変わり、餌が足りない
海水温の上昇によって、パフィンが餌とする小魚が減っている可能性がある。「タイセイヨウニシン、イカナゴ、メルルーサなど、パフィンが常食としていた魚が減り、メーン湾ではまれだった魚が多くなりました」とライオンズ氏は話す。例えば、バターフィッシュ(イボダイの仲間)やラフスカッド(タイセイヨウマアジ)といった亜熱帯性の魚が見られるようになった。これは、パフィンにとって厳しい状況になりつつあることを示している。
ライオンズ氏によれば、バターフィッシュは体高(背中から腹部まで)があるので、ヒナはうまく飲みこむことができない。その結果、親鳥が十分に餌を持ち帰っているにもかかわらず、巣穴には食べ残した魚が散乱し、ヒナは餓死することさえある。また、ラフスカッドなどは「形状は問題ないのですが、あまり栄養豊富ではありません。カロリー密度が低いのです」と氏は説明する。
会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。会員登録(無料)で、最新記事などメールでお届けします。
おすすめ関連書籍
絶滅から動物を守る撮影プロジェクト
色も姿も多様な鳥たちの写真約350枚、280種以上を収録。世界各地の珍しい鳥、美しい鳥、変わった鳥など、まだまだ知られていない鳥を紹介します。
価格:2,860円(税込)