コウモリをも食べる肉食コウモリ「チスイコウモリモドキ」

中米の熱帯雨林で調査、「めったに捕まらない」レアなコウモリ

2021.12.19
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南北米大陸で最大のコウモリであるチスイコウモリモドキがオオコウモリの仲間を食べている。(PHOTOGRAPH BY MARCO TSCHAPKA)
南北米大陸で最大のコウモリであるチスイコウモリモドキがオオコウモリの仲間を食べている。(PHOTOGRAPH BY MARCO TSCHAPKA)
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「チスイコウモリモドキだ!」

 暗い小道の先で、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校の生態学者、ウィニフレッド・フリック氏が声を上げた。夜の熱帯雨林にはキリギリスの合唱が響き、ホエザルたちの叫び声も聞こえてくる。フリック氏に追いつき、彼女の肩越しにコウモリ捕獲用のかすみ網をのぞくと、私の心臓は高鳴った。

 コウモリ保護NPOの主任研究員でもあるフリック氏は、中米のベリーズで行われている2021年のコウモリ調査に参加、仕掛けておいたかすみ網を回っていた。今回の調査では、11月の1週間にわたり、ラマナイ遺跡保護区で何十匹ものコウモリを間近で見てきた。ブルドッグのような顔をしたヒダヘラコウモリ、ピノキオのような鼻を持つハナナガサシオコウモリ、歯を見せてニヤリと笑っているような顔のナミチスイコウモリなどだ。

 これらのコウモリはどれもスズメより小さいサイズだが、今こちらを見つめ返しているコウモリはカラスほどの大きさがある。長い耳、突き出た鼻、むき出しの歯をもつチスイコウモリモドキ(Vampyrum spectrum)だ。南北米大陸で最大のコウモリで、翼幅が1メートル近くに達する個体もいる。

 チスイコウモリモドキと呼ばれるのは、チスイコウモリと異なり、血を吸うのではなく肉を食べるためだ。頂点捕食者として、げっ歯類や大型昆虫、鳥、さらにはほかのコウモリさえ襲って食べる。(参考記事:「吸血コウモリはなぜ仲間に血を分け与えるのか」

 フリック氏は、厚手の革手袋を荷物から取り出した。20年のキャリアで何千匹ものコウモリを扱ってきたが、チスイコウモリモドキは初めてだった。「気を付けないと、かまれてしまいます」

 前の週には、別のグループがかすみ網でメスのチスイコウモリモドキを捕まえていた。14年前から毎年ここで調査を行っているが、チスイコウモリモドキが確認されたのは今回が初めてだ。

 フリック氏がかすみ網から外してよく見ると、驚いたことに、両翼にパンチ穴が開いていた。これは前週に捕獲されたメスと同じ個体であることを示唆している(パンチ穴は遺伝子サンプルを採取するための手軽で無害な方法だ。皮膚はすぐに修復するため、飛行を妨げることはない)。

「コウモリは哺乳類の生物多様性の重要な一部を担っています。特にチスイコウモリモドキは驚きに満ちたコウモリの好例です」とフリック氏は話す。「彼らは中南米の熱帯雨林に暮らす空飛ぶジャガーです」

研究者もなかなか見られない「特別なコウモリ」

 ニューヨークにある米自然史博物館の研究員メリッサ・インガラ氏らはこのコウモリの皮下に小さなタグを埋め込み、最近食べたものを調べるため、排せつ物のサンプルを採取した。同じコウモリが再び捕獲されたら、排せつ物のサンプルを比較し、食事に変化があったかどうかを確かめることができる。これはチスイコウモリモドキの行動に関する重要な情報だとインガラ氏は説明する。

次ページ:「めったに捕まらない」

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