これまで新型コロナウイルスのワクチンは、どの変異株に対しても効果を示してきた。2020年12月11日に米食品医薬品局(FDA)が国内初の新型コロナワクチンとして米ファイザー・独ビオンテック製のワクチンを承認してから1年たつ。
だが科学者たちは今、新たな「オミクロン株」があまりに大きな変異を遂げたために、ワクチンの「レシピ」を変える必要があるのではないかと懸念している。(参考記事:「急拡大のオミクロン株、現状の要点は? 詳しく解説」)
11月下旬にオミクロン株の特徴が明らかになりはじめると、企業はこぞってワクチンの改良に取り組むことを宣言した。各社は現行のワクチンがオミクロン株に対してどの程度の効果があるかを検証することに加えて、米モデルナは「オミクロン株に特化したブースター(追加接種)ワクチン候補を迅速に開発する」と表明した。
ファイザーは2022年3月までにオミクロン株に対応したワクチンを利用可能にすると表明。米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も「オミクロン株に特化したワクチンを開発している」と発表した。
米国ではまだ新型コロナワクチンの承認が下りていない米ノババックスも、オミクロン株をターゲットにしたワクチンについて「数週間以内に試験と製造を開始できる」と発表している。
こうした改良競争には目を見張るべき点がある。「頻繁に改良する必要があるワクチンはあまり多くありません。麻疹(はしか)も、風疹も、肝炎も、ワクチンはずっと同じです」と米ミネソタ大学感染症研究政策センターの所長マイケル・オスターホルム氏は語る。
しかし、こうした変化の少ない病原体に比べて、新型コロナウイルスは進化が速い。オミクロン株はこれまでの変異株よりも免疫系をすり抜けやすいため、企業がオミクロン株に対応したワクチンの開発に取り組むのは当然のことだと専門家は言う。
予備的とはいえ南アフリカからデータが集まるにつれ、「オミクロン株に対する楽観的な見方はこの1週間で薄れてきました」と、米ピッツバーグ大学医学部の微生物学・分子遺伝学教授ボーン・クーパー氏は話す。「すでにかかったことのある人やワクチンを接種済みの人の中で、オミクロン株への感染率が非常に高いのです」
なぜオミクロン株は免疫を回避するのか
すでに免疫があるはずの人にオミクロン株が感染できるのは、ヒトの細胞に侵入する際に重要な働きをするスパイクたんぱく質に30以上もの変異が生じているからだと指摘されている。
クーパー氏によると、最も問題となるのは、スパイクたんぱく質の受容体結合ドメイン(RBD)という、ヒトの細胞に結合する領域に生じた変異だ。30を超えるオミクロン株の変異のうち、およそ15カ所がこのRBDに存在するため、ウイルスと細胞の結合を妨げる抗体の効果を大きく下げる可能性がある。
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