新型コロナウイルス感染症患者の肥大した心臓のX線写真。74歳の女性。回復から何カ月もたち、胸部スキャンやその他の検査結果が正常に戻ったにもかかわらず、心血管系の症状が続く患者もいる。(PHOTOGRAPH BY P. MARAZZI/SCIENCE SOURCE)
新型コロナウイルス感染症患者の肥大した心臓のX線写真。74歳の女性。回復から何カ月もたち、胸部スキャンやその他の検査結果が正常に戻ったにもかかわらず、心血管系の症状が続く患者もいる。(PHOTOGRAPH BY P. MARAZZI/SCIENCE SOURCE)
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 ダニエル・ハフさんが最初に胸の痛みに気づいたのは、ランニングマシンで走っているときだった。米イリノイ州で学校運営に携わる30代の彼女は、その2、3週間前に新型コロナウイルス感染症から回復したばかりだった。回復するまでは、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、咳(せき)、嗅覚の消失、体の痛み、軽い結膜炎、胸にボウリングの玉がのしかかるような重さなど、新型コロナのあらゆる症状を経験した。

 しかし、今回の胸の痛みはその時とは違った。鋭い痛みが突然襲ってきたのだ。毎日、ヨガやウォーキングをするなど、健康的な生活を心がけていたのに、恐ろしくなって全く運動ができなくなってしまったと話す。

「胸の痛みが何のせいなのかわからなかったので、怖かったのです」。主治医は最終的に、新型コロナからの回復後も心臓の症状が残る患者の治療を専門とする医師を紹介してくれた。

 新型コロナは肺だけでなく、心臓や血管にも影響しているようだと、科学者たちはパンデミック(世界的大流行)の初期から考えていた。「非常に早い段階で、血液凝固が大きな役割を果たしていることに気づきました」と、米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの心血管疾患予防センターで所長を務めるジェフリー・バーガー氏は言う。

 2020年3月の時点ですでに、血栓ができている患者が増え、心筋梗塞や脳卒中の増加につながっていた。また、解剖の結果、肝臓や腎臓など、通常はあまり血栓が発生しない場所に小さな血栓が見つかることが増えていた。

 ハフさんは心臓に関する一連の検査を受けたが、なぜか結果は正常だった。しかし、ヨガのレッスンを中断したり、校舎内を歩くときも途中で座って休んだりするほど息切れがひどくなった。新型コロナから回復して約1カ月後には時折、動悸がするようになった。

 謎をさらに深めているのは、軽症や無症状だった人の中にも、動悸や胸の痛み、息切れ、極度の疲労感などの症状が長く続く人がいることだ。何が原因なのかはまだ科学者たちにもわかっていない。

「実際に患者たちが症状に苦しんでいることは間違いありません」と語るのは、米テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターの心臓専門医ジェームズ・デレモス氏だ。氏は、米国心臓協会(AHA)で、新型コロナによる心血管疾患の情報登録を促す運営委員会の共同委員長も務めている。「問題は、症状につながるような、私たちがまだ気づいていない心臓の損傷があるのかどうかです」

新型コロナウイルスが心血管系を「二重」攻撃

 2020年のパンデミック初期には、血液が固まらないようにする抗凝固薬を使用することで、中等症の患者の生存率が向上することがわかっていた。しかし、バーガー氏によると、致命的な血栓症には、これらの抗凝固薬だけでは治療できないものがあることも明らかになっていた。

「4人に1人の患者が、死亡するか、(人工臓器による)臓器のサポートを必要としていました」と氏は語る。

 この5〜10年の間に、HIV(エイズウイルス)感染症、乾癬(かんせん)、狼瘡(ろうそう)、関節リウマチなどの病気において、血小板が血栓や炎症を促進しうることが知られるようになった。血小板は、傷ついた血管に結合して血栓を形成し、出血を止める役割をもつ。そこでバーガー氏らの研究チームは、新型コロナにおいて血小板がどのような役割を果たしているのかを調査することにした。

次ページ:「血小板の遺伝子構造を変えてしまったかのよう」

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