長引くコロナの心臓後遺症、なぜ? 治療法は? 研究に進展

ウイルスは「火と氷の両方で攻撃できるようなもの」、治療法の報告も

2021.12.07
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「その結果、全く予想しなかったことが判明しました」とバーガー氏は話す。「何かが血小板の遺伝子構造を変えてしまったかのようでした」

 研究の結果、血管内皮細胞(血液の内側を覆う細胞)での血液を凝固させる炎症に果たす血小板の役割が明らかになった。新型コロナウイルスは血小板の元になる巨核球に感染し、血小板の遺伝物質を変化させる。そのせいで活発になった血小板は、血管内皮細胞の粘着性を高めたり炎症を起こさせたりするタンパク質を作るようになる。こうして血管内に血栓ができやすくなり、全身に広がってゆく。この論文は9月8日付けで学術誌「Science Advances」に掲載された。

 一方で、新型コロナウイルスは血管内皮の組織の結合を弱め、漏出しやすくすることもわかった。

 このウイルスはどういうわけか、血管に「二重の、そして反対の方法で」影響を与えると言うのは、血管内皮を最も傷つける新型コロナウイルスのタンパク質を特定した論文を10月25日付けで学術誌「eLife」に発表したイスラエル、テルアビブ大学の生物医学エンジニアであるベン・マオズ氏だ。「火と氷の両方で攻撃できるようなものです」

 血管が漏れやすくなるせいで、血液や体内の物質が、肺胞など本来入ってはいけない場所に入り込んでしまう。その結果、重症患者の多くに見られる肺水腫から、肝臓、腎臓、心臓の合併症に至るまで、さまざまな影響が連鎖的に現れる。

自律神経系の機能に影響か

 しかし、この血管の損傷が、新型コロナからの回復後も残る心血管系の症状とどのように関連しているのか、正確にはわかっていない。

 バーガー氏によれば、重度の炎症を引き起こすウイルスが回復後に後遺症を残すことは珍しくないという。中等症あるいは重症で入院を余儀なくされた患者であれば、特にそうだ。ただし新型コロナの場合、無症状、軽症、中等症だった患者(子どもを含む)の中にも、心臓への損傷が見られる点は気がかりだ。

 しかし、新型コロナによる心筋炎は、当初考えられていたよりもまれなのだとデレモス氏は言う。9月に米疾病対策センター(CDC)が発表した調査結果によると、新型コロナ患者は、そうでない患者に比べて心筋炎のリスクが約16倍になる。それでも心筋炎はどちらの集団においてもまれであり、新型コロナによる心筋炎のリスクはわずか0.146%と結論づけられている。さらに、デレモス氏によると、こうした症状は数カ月で治癒するという。「大半の(患者の)心臓は、追跡調査の際にはおおむね正常であるように見えます」

 一方で、前述のハフさんのような患者もいる。米ワシントン大学医学部の新型コロナ回復後患者専門クリニックでハフさんの治療に当たった心臓専門医のアマンダ・バーマ氏によると、胸の痛みを訴えて来院しても、運動負荷試験では異常がない患者や、動悸を訴えていても、心拍数モニターは正常に見える患者もいるという。しかし、これらの検査がすべてを物語っているわけではないと氏は語る。

「もう少し詳しく調べれば、心拍数のパターンが正常ではないことがわかります」。歩いているときに心拍数が上がるのは当たり前のことだ。しかし、ハフさんのように若くて運動能力の高い患者が、部屋を横切るだけで、あるいは睡眠中に、心拍数が60から120に跳ね上がるのは普通ではない。

 この異常な心拍数の上昇は、新型コロナが自律神経系の機能障害を引き起こしたことを示唆しているとバーマ氏は言う。呼吸や心拍などの生命活動を自動的にコントロールするのが自律神経系だが、新型コロナの後遺症が長引く人では、この仕組みが正常に機能していないようだ。

次ページ:治療法が見つかり始めている

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