書きたい物語vs求められる物語

 オルコットは当初、後に『若草物語』と名付けられるこの小説を書くのに自分はふさわしくないと感じていた。姉のアンナ、妹のエリザベスとメイという3人の姉妹以外、「女の子が好きではないし、知っている女の子も少ない」と日記に書いている。

 1868年8月、書き上がった原稿を読んだ彼女とナイルズは、最初の十数章を退屈と感じた。しかし、その後の校正版についてオルコットはこう書いた。「思ったよりもよく書けている。全くもって華に欠けるが、素朴で真実味がある。なぜなら、私たちはそのほとんどを実際に体験したから」

 物語は南北戦争を背景に、賢いメグ(姉のアンナがモデル)、反抗的なジョー(オルコットの分身)、優しいベス(エリザベス)、気ままなエイミー(メイ)の4姉妹が、冒険や愛、居場所を求めて成長していく1年間を描く。愛情に満ちた母親のマーミーがいてくれるものの、父親は牧師として従軍しており家を離れている。物語が進むにつれ、三女のベスは若くして亡くなり(オルコットの妹エリザベスも実際に猩紅熱で亡くなっている)、他の3人の姉妹たちもそれぞれの道を歩むことになる。メグは家庭、ジョーは執筆と教育、そしてエイミーは芸術の道だ。

米マサチューセッツ州コンコードにあるオルコット家の住居、オーチャード・ハウス。ルイーザ・メイ・オルコットはここで1868年に『若草物語』を執筆し、物語の舞台ともなった。(BRIDGEMAN/ACI)
米マサチューセッツ州コンコードにあるオルコット家の住居、オーチャード・ハウス。ルイーザ・メイ・オルコットはここで1868年に『若草物語』を執筆し、物語の舞台ともなった。(BRIDGEMAN/ACI)
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『若草物語』の初版は、現在よりも短いものだった。2週間で2000部が売り切れたため、出版社はオルコットに第2部の執筆を依頼し、これらがまとめられて現在の1冊の本になった。オルコットは恋愛や結婚について読者たちとは異なる考えを持っていた。ジョーを自分と同じように未婚にしておきたかったが、出版社や読者はジョーが金持ちのローリー・ローレンスと結婚することを熱望。オルコットは『若草物語』の第2部で譲歩したものの、多くの読者が望んでいたのとは違う結末を用意した。ジョーは年上のベア教授と結婚、妹のエイミーがローリーと結婚するのだ。

 オルコットが結婚生活に否定的だったのは、経済的困難が両親の結婚生活に負担をかけたことも影響しているかもしれない。作中のジョーは、おばの遺産と執筆活動によって経済的な自由を得る。そして、1834年にオルコットの父がそうしたように、夫と協力して男子校を設立する。

 マーチ家の少女たちのその後をもっと知りたいという世間の声に押され、オルコットは2つの続編を書いた。『第三若草物語(Little Men)』(1871年)は男子校の生徒たちの物語、『第四若草物語(Jo's Boys)』(1886年)は三部作の最後の作品で、生徒たちが大人になってからの物語だ。

1933年に公開された映画『若草物語』のポスター。主演はキャサリン・ヘプバーン。(ALAMY/ACI)
1933年に公開された映画『若草物語』のポスター。主演はキャサリン・ヘプバーン。(ALAMY/ACI)
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