知る人ぞ知るイタリア山岳鉄道の旅、路線復活で一躍大人気

美しい自然と古き良きイタリアの姿、「小さなシベリア鉄道」の愛称も

2021.12.07
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 ほとんどの駅で1時間ほど停車するので、旅行者はゆっくり散策することができる。列車では食事は出ないので、私たちは、塩漬け肉、フォカッチャ、モッツァレラチーズ、カチョカバロチーズなどの地元の食材を出すレストランを探した。自力で探すのは面倒という人は、ガイド付きのサイクリングツアーや徒歩でのツアーに参加するといいだろう。

 列車にはさまざまな人が乗っていた。年配の人の多くは、この路線で通勤していた若い頃を思い出すと言っていた。人々がこの列車に乗る理由はいろいろだ。ある女性グループは、年に一度の休暇のために一等車を貸し切っていた。またある男性は、愛犬を窓に近づけて、一緒に景色を楽しんでいた。

スルモーナ=カルピノーネ線に乗り、夕方の景色を楽しむカップル。(Photograph by Chiara Negrello)
スルモーナ=カルピノーネ線に乗り、夕方の景色を楽しむカップル。(Photograph by Chiara Negrello)

イタリアの歴史を語る鉄道

 鉄道は、イタリアの文化や歴史を語る上で欠かせない要素であり、スルモーナ=カルピノーネ線はその象徴的な路線の1つだ。イタリアにおける鉄道建設の全盛期は1860年から1873年にかけてで、イタリア統一の時期と重なっている。長らく多くの小国に分裂していたイタリア半島は、数十年にわたる紛争を経て、この時期にようやく1つの国として統合され、現在の形になった。

 イタリアでは1900年代初頭にインフラの見直しが行われた。最初の鉄道は蒸気機関車だった。自動車が特権階級だけのものだった時代に、数十の鉄道路線が次々に誕生し、多くの人々を互いに結びつけた。鉄道が発達した時代は、動物の力に代わって蒸気が使われるようになった、イタリアの産業革命期と重なる。その後、蒸気に代わって電気やディーゼルが主な動力源となっても、鉄道は進歩と近代化の象徴であり続けた。

出発からまもなく、列車はマイエラ山の南斜面にあるカンポ・ディ・ジョーべに停車した。(Photograph by Chiara Negrello)
出発からまもなく、列車はマイエラ山の南斜面にあるカンポ・ディ・ジョーべに停車した。(Photograph by Chiara Negrello)

 スルモーナ=カルピノーネ線は、産業革命の直前に開通し、瞬く間に未来への期待の象徴となった。開業以来、鉄道は戦争や地滑りなどの自然災害をいくつも乗り越えてきた。

 第二次世界大戦中には、この地方の駐留地に物資を運ぶという重要な役割を果たしたが、ドイツ軍によって破壊されてしまった。修復には何十年もかかり、1960年代にようやく修復が完了した頃には、すでに利用者は減少していた。

 1980年、新たな愛称がこの路線への関心を呼び起こした。ジャーナリストで作家のルチアーノ・ゼッペーニョ氏が、沿線の山岳風景に感銘を受け、記事の中で「小さなシベリア鉄道」と称したのだ。もちろんシベリアに近いところを走っているわけではないのだが、この愛称は定着し、観光客を呼び込むようになった。

車掌のマルチェロ・ダミーコ氏は、毎週末、この歴史的な列車に乗り組んでいる。(Photograph by Chiara Negrello)
車掌のマルチェロ・ダミーコ氏は、毎週末、この歴史的な列車に乗り組んでいる。(Photograph by Chiara Negrello)
手すりや天井に施された曲線的な装飾は、1930年代に流行したアールデコ調のデザインだ。(Photograph by Chiara Negrello)
手すりや天井に施された曲線的な装飾は、1930年代に流行したアールデコ調のデザインだ。(Photograph by Chiara Negrello)
各車両にはイタリア絵画の複製画や列車に関する情報が掲示されている。(Photograph by Chiara Negrello)
各車両にはイタリア絵画の複製画や列車に関する情報が掲示されている。(Photograph by Chiara Negrello)

 2014年、州の機関であるイタリアFS財団は、スローでサステナブルな観光を活性化するプロジェクトの一環として、この地方の10の鉄道路線を再開させた。復活した鉄道は大人気を博し、2019年の利用者数は3万1000人にのぼったが、その後、コロナ禍がやってきた。長期にわたる運行停止を経て、今年6月に再開された鉄道は、週末のみ1日1本の運行で、定員の70%しか乗車できないが、温かい歓迎を受けた。

 12月から1月末までのホリデーシーズンには、マスク着用や入退場レーンの分離などの対策をとった上で、運行本数を増やす予定である。

 スルモーナ=カルピノーネ線の車掌のマルチェロ・ダミーコ氏は、「私にとって、鉄道は、最高の発見と冒険を意味します」と語る。「なかでも刺激的なのは、通勤客から学生まで、いろいろな人と知り合えることです。列車の中には無数の物語があり、それらは毎回違っています」

スルモーナ=カルピノーネ線で山の景色を楽しむ女性。(Photograph by Chiara Negrello)
スルモーナ=カルピノーネ線で山の景色を楽しむ女性。(Photograph by Chiara Negrello)

 私が乗車したのは晩秋だった。午後にアブルッツォ州の高原を走り抜けるとき、山の斜面は赤や金色に染まっていた。しかし、風景は季節ごとに異なる色に染まる。冬には山々の頂は雪に覆われ、夏には草原がエメラルド色に輝く。

 終着駅のカルピノーネから、旅の出発点であったスルモーナまではノンストップで戻る。帰り道は、昔の甘い夢から覚めたような気分になる。

 夜になるとランプが車内を温かく照らし出すが、昔ながらのランプには細心の注意が必要かもしれない。闇が訪れたら、山の斜面の小さな町のささやきのような光を見られるだろう。

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文、写真=Chiara Negrello/訳=三枝小夜子

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