ナショナル ジオグラフィック英語版12月号の表紙。ヌーたちが移動し、アマサギたちが取り巻く。タンザニア、セレンゲティ国立公園のヒドゥン・バレーでチャーリー・ハミルトン・ジェームズ氏が撮影した。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES)
ナショナル ジオグラフィック英語版12月号の表紙。ヌーたちが移動し、アマサギたちが取り巻く。タンザニア、セレンゲティ国立公園のヒドゥン・バレーでチャーリー・ハミルトン・ジェームズ氏が撮影した。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES)
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 アフリカのウシ科動物、ヌーの大移動をこれほど多様な視点からとらえた写真プロジェクトがかつてあっただろうか。

 ナショナル ジオグラフィック誌は2021年12月号で、92ページにわたる総力特集「驚きの大地 セレンゲティ」を掲載した。セレンゲティは、アフリカのタンザニアからケニアにかけて多様な動物たちが暮らす、広大な生態系を指す。その全編にわたり、写真撮影を担当したのが写真家チャーリー・ハミルトン・ジェームズ氏だ。

 ジェームズ氏は、野生動物と、それに関連する自然保護や博物学、人類学の問題を撮影している英国の写真家。写真の世界からいったん映像とテレビの仕事を経て、再び写真の世界に戻ってきた。以来、ナショナル ジオグラフィック、BBC、米国立自然史博物館などが氏の写真を採用している。

 ジェームズ氏の写真がナショナル ジオグラフィック英語版の表紙を飾るのはこれで3度目。今回の一大プロジェクトがどのように立ち上がり、どのように写真が選ばれたのか、ジェームズ氏とナショナル ジオグラフィックの写真副編集長キャシー・モランに語ってもらった。(参考記事:「チャーリー・ハミルトン・ジェームズ、決定的瞬間、こうして撮った――写真家が語る」

セレンゲティでの撮影秘話

 総力特集「驚きの大地 セレンゲティ」は、提案書が提出されてからチームが取材現場に立つまでに数年を要した。「季節や動物たちの移動など、いろいろな課題に直面しました」とモランは話す。「始まりから終わりまで長い時間がかかることはありますが、これはそのようなプロジェクトの一つでした」

 セレンゲティは、これまで何度もナショナル ジオグラフィックの特集に取り上げられてきた。観光が動物に及ぼす影響をテーマにしたものから、ライオンの群れに密着したものまでさまざまだが、この数十年、その全体像が取り上げられることはなかった。ジェームズ氏とモランはともに、「当地の生態系に不可欠なものとしての野生動物」をより深く掘り下げることが必要だと考えていた。(参考記事:「1986年5月号のセレンゲティ特集では岩合さんの写真が表紙を飾った(インタビュー:岩合光昭)」

【フォトエッセイ】命を懸けた戦い 写真15点(2021年12月号『驚きの大地 セレンゲティ』)(クリックでギャラリーページへ)
【フォトエッセイ】命を懸けた戦い 写真15点(2021年12月号『驚きの大地 セレンゲティ』)(クリックでギャラリーページへ)
タンザニアのヒドゥン・バレーに寝そべるライオンたち。3月はオグロヌーの出産シーズンで、獲物となる赤ちゃんが豊富なため、ライオンたちの食欲は満たされている。だが季節が進むと、オグロヌーの群れは草を求めて北へ移動してしまい、獲物が減って飢え死にするライオンも出てくる。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES)

 セレンゲティは「世界で最も重要な動物撮影ロケーションの一つ」とジェームズ氏は表現する。だが、そのことが明白であるがゆえに忘れられてしまいがちな物語があり、そこにジェームズ氏は引きつけられると言う。

 ジェームズ氏は今回、セレンゲティ南部のヒドゥン・バレーで多くの写真を撮影した。水場を中心に、ライオンやヌーの大群などを見られることを知っていたためだ。「1日に10万以上の動物がヒドゥン・バレーに立ち寄ることもあるのではないでしょうか」とジェームズ氏は言う。「活気があるからこそ、私はそこへ行くのです」

 ジェームズ氏は取材中、膨大な量の写真を撮影するが、就寝前に必ずその日の写真を見直し、ベストショットを選ぶようにしている。そして、それらの中から、写真編集者のモランに提出する写真を500枚程度まで絞り込んだ。

 2人は4〜5時間の長電話を3回ほど繰り返し、特集に掲載する写真の最終候補を一緒に選んだ。プロジェクトの編集段階で、どの写真を採用するかについて意見が食い違うことはほとんどないと口をそろえる。

 モランによれば、ジェームズ氏の映像製作の経験が物語のある写真につながっており、その結果、編集作業が楽になるという。モランは写真編集を「写真家との言葉なき会話」に例える。写真家が撮影中に何を見ているか、何を感じているかが伝わってくるためだ。

「本当の意味で互いを信じ、すべてがうまくいくと信じなければなりません」

次ページ:写真選定のプロセス

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