ジェームズ氏は通常、編集段階になると一歩下がり、編集者にプロジェクトを形づくってもらうという。しかし、今回はいつもより深く関与し、野生動物を見ようと集まった観光客の写真を使いたいと主張した。物語をより正確に伝え、セレンゲティの生態系における人と動物の本質を示すには、この写真を挿入することが重要だと考えたためだ。(参考記事:ヌーの大移動を見るために集まった大勢の観光客:特集「思いがけない真の王者」)
「真実が知りたければ、(動物たちの)反対側を見ればわかります」とジェームズ氏は話す。
偶然にも、ジェームズ氏がこれまで携わったナショナル ジオグラフィックの特集で最も気に入っているのもセレンゲティで撮影した記事だ。ジェームズ氏は2016年1月号で、ハゲワシを救うことの重要性をテーマにした特集記事を担当した。(参考記事:「ハゲワシ“嫌われ者”の正体」)
この写真が伝えるテーマ
ジェームズ氏とモランによれば、ナショナル ジオグラフィック2021年12月号「驚きの大地 セレンゲティ」特集は複数のレイヤーで構成されるという。英語版の表紙写真ではヌーが水辺に群がり、アマサギが飛んでいるが、セレンゲティを最も端的に表すのはこうした動物たちのにぎやかな写真だとジェームズ氏は説明する。
ジェームズ氏は読者がページをめくり、表紙に写っている動物たちについて、1枚のポートレートではわからないことまで学んでほしいという。ジェームズ氏は通常、動物の前景と背景を含めて撮影する。「この大きな物語を、写真を通じて」伝えることが目的だ。
一方、モランによれば、表紙写真は読者を本来の焦点に導くためのものだという。本来の焦点とはヌーのことだ。
「驚きの大地 セレンゲティ」を読み終えた読者に、ヌーの移動と気候変動の関係、そして、生態系全体がヌーに依存していることをより深く理解してもらうことが重要だとモランは説明する。「彼らがいなければ崩壊してしまいます」(参考記事:「生命の大移動 驚きの大地セレンゲティ」)
編集者たちがこの表紙について話し合ったとき、素晴らしい瞬間が訪れたとモランは振り返る。編集長のスーザン・ゴールドバーグがナショナル ジオグラフィックの象徴である黄色い枠を用意し、編集者たちが表紙をイメージしやすいよう、部屋に並べられていた写真に重ねたときのことだ。
「表紙にふさわしいパワフルな写真がたくさんあることに気付かされました」とモランは語る。
ジェームズ氏によれば、表紙写真はもともと風景写真として撮影されたものを、その後、トリミングによりヌーに焦点を当てたポートレートに編集されたという。(参考記事:「聖なる森の声を聴く」)
次のプロジェクトはウシと環境
ジェームズ氏が次に予定しているのは、ウシの飼育と環境への影響に焦点を合わせたプロジェクトだ。カメラを向けても面白くない話に見えるかもしれないが、興味深い話であり、撮影する必要があるとジェームズ氏は述べている。
「生物多様性の喪失、生息地の喪失、気候変動、先住民の土地の破壊。世界中で起きているこうした問題の多くにウシが関わっています」とジェームズ氏は話す。「私たちはそれを大々的に取り上げるつもりです」