葉が落ちるまでの過程は「葉の老化」と呼ばれている。気候変動の影響で、この現象が一部の種で顕著になっているが、その影響は未知数だ。
「植物には驚くべき対応能力があります」とフォークナー氏は言うが、木の適応能力の限界はまだわかっていない。「木々が葉の栄養分を吸収できなければ、森に問題が生じる可能性がありますが、現時点ではまだわかりません。研究している人が少なすぎるのです」
メーン州のアーカディア国立公園では、科学者たちが9月の夜の気温上昇と紅葉の遅れに関連がある可能性を指摘している。
「これは私たちが見てきた中で最大のシグナルです」と、米リッチモンド大学の環境科学者で、アーカディア国立公園の紅葉を研究しているステファニー・スペラ氏は話す。「秋がなくなっていっています。どんどん短くなり、春が来るのは早まっている。何もかもが変化しているのです」
過去1世紀の間に、同公園の気温はおよそ1.9℃上昇した。木々やその他の植物もこの変化の影響を受けている。100年前に同公園で記録された植物種の5つに1つは、現在では見られなくなっている。
樹木の変化を知る
紅葉の変化を歴史的にとらえるため、フォークナー氏と、メーン州のジャクソン研究所で博士課程に在籍するアレクシス・ガレットソン氏は、大学やその他の機関が管理する植物コレクションである「ハーバリウム」に注目した。19世紀に米国中東部で収集されたカエデの葉のデジタル記録を調べたところ、1880年以降、紅葉の始まりの時間が年平均で約6時間ずれていることがわかった。1世紀以上の間に、その遅れは1カ月以上にもなっている。
「2人とも、かなり大きな変化があることは予想していましたが、そのシグナルがあまりにも強いことに驚きました」とガレットソン氏は言う。
2人はさらに、病原菌や植物を食べる動物による葉の損傷を調べた。その結果、時間の経過とともに損傷の範囲が拡大していることがわかった。これは、夏の干ばつの増加と、紅葉が遅くなっているにもかかわらず木から葉が落ちるのが早くなっていることと関係があるようだ。損傷のある葉は、そうでない葉に比べて3週間も早く落葉する傾向があった。
気温の高い時期が長くなり、春の訪れが早くなったことで、木々の成長期間が長くなり、暖かい時期と寒い時期の変わり目が短くなっている。つまり、秋が短くなっているのだ。懸念されるのは、霜が降りる前に、木々がまだ緑の葉に残っている糖分や炭水化物を吸収し終えることができないかもしれないことだ。
「急に冷え込んでしまうと、木が順応できない可能性があります。栄養分をすべて吸収する前に葉が落ちてしまうかもしれません」と、米アパラチアン州立大学の生物学者、ハワード・ノイフェルド氏は警告する。
そうなると、翌春の木の生育にも影響が出る可能性がある。樹木にとって紅葉のプロセスは、「いかにして食料品店に行き、来年に必要な食料をすべて手に入れるか」だとフォークナー氏は言う。「もしそれができなければ、寿命に影響が出ます」
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