コロナワクチンの開発にヒトの胎児細胞が使われる理由

日常的な薬の開発にも、中絶胎児に由来、米国では宗教的な議論に

2021.11.27
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胎児細胞が医薬品開発に必要な理由

 ウイルスは細菌と異なり、感染した宿主細胞の中でしか成長・増殖できない。ワクチンは通常、弱毒化や不活化したウイルス、あるいはウイルスの重要なパーツや遺伝子を少量投与することで、病気を引き起こすことなく宿主の体に病原体を予習させている。こうすることで、免疫系は特定のウイルスについて記憶し、将来同じウイルスに遭遇したときにどのように破壊するかを覚えておくことができる。

 したがって、製薬会社がワクチンを大量生産するには、ウイルスの成分を大量に作る方法が必要だ。

 例えば、毎年製造されるインフルエンザワクチンは、ニワトリの受精卵を宿主としてインフルエンザウイルスを増殖させている。しかしワクチンメーカーは、ウイルスを哺乳類の細胞で培養することを好んでいる。主な理由は、ウイルスの突然変異を防ぎ、大規模生産がしやすいからだ。

 製造には当初、ヒト以外の動物の細胞が使われていた。だが後になって、動物の細胞には他の好ましくない動物ウイルスが付着している可能性があり、ワクチンが汚染されるおそれがあることがわかった。例えば、1955〜1963年に大規模に接種された初期のポリオワクチンはサルの細胞を使って製造されていたが、後にSV40というサルウイルスが混入していたことが判明している。

 もう一つの問題点は、ヒトウイルスの中には、ヒト以外の動物細胞中では増殖しないものがあったことだ。そこで科学者たちは、ヒトの胎児細胞を使ってワクチン用のウイルスを作ることにした。

 成人の細胞とは違い、「胎児細胞は好ましくないウイルスによる汚染がまれであることが知られていました」と米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の細胞生物学者レオナルド・ヘイフリック氏は言う。氏は、1960年代初頭にスウェーデンで行われた選択的中絶に由来する胎児の遺体から「WI-38」と呼ばれる最古の胎児細胞株を作製した。

 だがその後、ヒト以外の動物細胞の中にも、ある種のウイルスに対するワクチンの開発で安全に使えるものがあることがわかってきた。例えば、アフリカミドリザル腎細胞は、ポリオや天然痘を含むいくつかのワクチンの開発に使用されている。

 ただし、特に新しい種類のヒトウイルスについては「ヒト細胞株のほうが好まれています」とスウェーデン、カロリンスカ研究所のバイオマテリアル研究者アレッソンドラ・シュパイデル氏は説明する。動物よりヒト由来の細胞のほうが感染・増殖がうまくいく可能性が高いからではないかという。

次ページ:胎児細胞はどこから来るのか?

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